連合軍の設立に動く2つの地域Part 1-EU

Apr. 4, 2015

 

 3月に欧州委員会のユンケル委員長は、EUにNATO以外の統一「EU軍」(注1)を設立するべき時がきたと主張した。その一週間後、アラブ連盟は「アラブ連合軍」を設立する決議案に合意した。この2つの動きは、一体何を意味しているのか?


(注1)「EU軍(EU Army)」は欧州合同軍(Eurocorps)とは別のものである。欧州合同軍は6カ国の陸軍部隊で構成され、平和維持、集団安全保障、災害救援が主な目的である。過去、ボスニア・ヘルツェゴビナへ国際治安支援を行なった実績がある。


EU軍の設立案の背景には

 欧州のNATO軍(注2)は、米国兵力が主体である上、EUの28カ国のうち6カ国は加盟していない。最近の主な活動は、アフリカ諸国の国軍に訓練を行う部隊、紛争地帯での治安維持やイェメンのアデン湾での海賊対策の艦隊派遣などがある。


(注2)NATO(北太平洋条約)は1949年に欧州集団防衛として誕生した。当初の目的は冷戦による東西対峙における欧州防衛であった。欧州諸国は、米国の強大な軍事力と核抑止力の傘に入り安定した経済成長を遂げるために団結した。そのため加盟国が攻撃された場合、集団で防衛にあたる集団自衛権を持つ。



 

 ウクライナ紛争を背景に、ロシアに対する防衛手段の強化としてEU軍の設立が検討されているが、EU加盟国全てが合意しているわけではない。英国は反対しているのに対して、ドイツはEU加盟国が各々に持つ軍隊を廃止し、EU議会の管理下に置く統一の軍隊の設立に賛成である。

 

 ギリシャの債務不履行によるEU離脱の可能性が高まっているなか、英国のEU加盟国からの移民増加に対する国民の不満によるEUからの脱退リスクやスペイン、ポルトガル、イタリアといったPIGS債務国の離脱の可能性でEU崩壊の危機が現実味を増している。このような状況下で、統一「EU軍」の設立は考えにくいと思われる。

 

 では、「EU軍」の設立の動きにある背景には、何が考えられるか?英国、ポーランド、バルト3カ国は強く反対しているが、ドイツに加えてフランス, オランダ、ベルギーも米国主導の政策から離脱の動きを見せている。NATO軍を通して外交政策を実施している米国に対して、「EU軍」の設立案はアメリカのヨーロッパにおける影響力を弱め、「アメリカの核の下」からの脱却を図る動きとして考えるべきだと述べるのが、ヨーロッパ政策分析研究所のMateusz Piskorski氏である。

 

 「EU軍」の設立案は2003~ 2004年のイラク戦争の時に一度浮上した。米国とヨーロッパの間で、地政学上の政策の違いがある時に噴出する動きである。

 

 今回は、ウクライナ問題がきっかけとなっている。米国主導の対ロシアへの経済制裁は、ヨーロッパ諸国、特にロシアへの工業製品の輸出が多いドイツや農産物の輸出が多いフランスにとって、大きな経済的損失をもたらしている。また、ヨーロッパ諸国、特にドイツはロシアの最大の天然ガス輸入国であり、ウクライナ紛争の早期平和的外交的解決を求めるドイツとフランスの、「EU軍」要請支持はNATOの活動、つまり米国とは別の対ロシア政策を進めたい意向を反映していると解釈できる。