EVの明暗を握るバッテリー

Sept. 16, 2014

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 日産はリーフというEVを生産している。ゼロエミッションというアピールポイントの他、狭い都市部でも取り回しのしやすい車体サイズで、NYのタクシー にも採用されている。しかし日産・ルノーは電池自社生産を縮小する計画で、将来は電池生産を委託に切り替える方向でいる。


 一方、異色のEV専門メーカーテ スラ社の最近の快進撃は目を見張るばかりである。テスラ社のマスタープランによれば、パナソニックと5000億円で電池生産拠点を計画中だ。これらの企業 の明暗は明らかだ。

 一体何が両者で違うのだろうか。両者の代表的な車種であるリーフとロードスターについて考察してみる。EVのエンジンであるモーターは両者とも、効率の良い3相交流でDCバッテリーからインバータで交流に変換される。モーターはレアアースを使った永久磁石が使われている。また減速時に回生エネルギーがバッテリーに蓄電される基本的なメカニズムは共通である。少なくとも駆動系の基本的なメカニズムは同じである。



テスラ社の躍進

 テスラ社のマスタープランで、EVの鍵はバッテリーとしている。ここに両者の違いがある。リーフではNECとの合弁会社が生産するリチウムイオンバッテリー192個を並列接続している。EPA燃費は42.1km/L(33.7kWhを1ガロンとして)だが、航続距離は200km、充電時間は200Vで8時間とされる。


 一方のロードスターのバッテリーは一風変わっている。ロードスターは車体にロータス社の市販車エリーゼに、テスラ社が独自技術で開発した交流モーター駆動系とノートパソコン用の市販リチウムバッテリー6,831個搭載しているのだ。バッテリー部分の重量で450kgにもなるが、容量が大きいため実用的な航続距離378kmを達成するとともに、EVの瞬発力を生かしたスポーツ性能も高級スポーツカーに匹敵する。


 パソコン用バッテリーというと眉をひそめる人もいるかも知れないが、軽量なラミネート型でコストを比べたら、間違いなく性能もコストも(パソコン用だという「常識」にとらわれなければ)選択肢に入るはずだ。


テスラ社のEV戦略
 ロードスターは、人気を集め市販予定の台数は完売した。テスラ社はその利益で次に大衆車(セダン、SUV)の開発に取り組んだ。EVやHVの保守的なデザインを変革するようなEVセダン(タイプS)が日本でもデリバリが開始される。モデルX(SUV)を加えた3車種で50万台を生産する計画である。テスラ社の戦略を支えるロジックはこうだ。

 現在のいかなるHVも基本はガソリン車と変わらない。バッテリーに充電する際にガソリンエンジンを使うからである。石油から走行エネルギーへの変換の効率でいうと、現在EPA燃費でトップを走るプリウスのエネルギー単位の効率は0.56km/MJ(単位はエネルギーのMegaJ)で、ホンダのFCVは0.35km/MJであるのに対し、ロードスターの電気をコージェネで天然ガスからつくると、1.14km/MJとダントツに優れているとしている。

 テスラ社はこのロジックで投資家達を納得させ、パナソニックとの電池ファクトリーに5,000億円を投資するという。Eron Muskは宇宙ビジネスの一角を形成するスペースX社のCEOでもあるが、リスクの大きいこの分野でもNASAの契約を勝ち取るなど、積極攻勢で知られている。また彼の周囲にはITバブルの申し子のベンチャーキャピタルや、Google, Ebayの共同創立者が投資の後ろ盾となり投資環境がいい。



EV戦略の鍵は何か
 日産がリーフの次に何を考えるか、でEVの主導権が決まるような気配である。残念だが国内でリーフの販売は低調だ。その理由は何と言っても航続距離200kmで実用レベルに届かない事やインフラ整備の遅れなどである。この航続距離では米国では都市部に限定されるタクシー以外は個人の需要は少ないだろう。リーフの問題は航続距離だけではなくバッテリー生産拠点を欧州に分散したコスト高も効いている。


 テスラ社のように生産拠点に集約することで巻き返しも可能だろう。フォックスコンがEV参入という噂もある。バッテリーがEVの鍵で、IT企業がそのため実用車に近いことは間違いなさそうだ。