残骸発見で深まる消えたマレーシア機の謎

12.10.2015

Photo: E&T


マレーシア航空MH370便がクアラルンプールを離陸して消息を絶ってから懸命の捜索にも関わらず、みつかった機体の一部は極めて少なく、その確認からマレーシア政府が墜落を認めたにも関わらず多くの謎が残されたままである。


最大の謎は発見された機体の一部がMH370機のものだとしても、その他の残骸やブラックボックスは見つかっていない。BBCは何度も検証番組を組んで詳細な事実関係を明らかにしたが、機体の一部が発見されてもなお解決には程遠い状態で関係者の苛立ちも限界に達している。


ここではあらためて事実関係を整理した上で可能性のあるシナリオを考えてみる。なお航空機用語についてはその都度、注釈をいれたが注目すべき点は現在の航空管制が不完全なものであり、今回の事件により航空管制の抜本的な改善策が加速することだ。これまでも航空機事故により多くの機体設計や航空管制が改良されてきたが、MH370事件で盲点がまだあったことを世界のエアラインが認識した。



MH370が消息を断つまで

行方不明(注1)の機体はボーイング777-200ERで乗員乗客合わせて279名が登場していた。機体の通信装置はHF220MHz)アンテナ1VHF118136MHz)アンテナ3ACARS、衛星通信装置(SATCOM)。


(注1)機体の一部とされる漂流物に確認できない点があること、および一個の漂流物のみで他の残骸がみつかっていないことなどから、正確には行方不明の状況に変わりはない。


クアラルンプールに近いウエイポイント(航路の基準地点)、IGARIを通過して間もなくレーダーから機影が消えた。(注2)世界の空はレーダーに計測されないいわゆるブラインドスポットが90%。レーダーで捉えることができないのは、墜落したか、低空飛行しで機影を消してブラインドスポットに入ったことによる。


(注2)電波を発射して反射波を観測するのが通常のレーダーでPrimary Radarと呼ぶ。観測距離は約100マイルまで。これに対してSecondary Radarは航空機のトランスポンダーを受信して情報を表示するもの。Primary Radarが機影を失ってから1分後に切られた(注3)。


(注3)トランスポンダーを切ることは簡単ではないが、火災などで電源が遮断されれば切れるので、火災により電源が落ちたかあるいは消火作業の中で電源を落とせばトランスポンダーを切ることができる。


Primary RadarSecondary Radarが機影とその情報を表示しなくなった地点はインドネシアから航空管制がヴェトナムに交代する地点である。インドネシア側と最後のやりとりをしてからヴェトナム側の航空管制が問いかけをする間の17分間は通常の航空管制引き継ぎでは考えられないほど長い。この点が航空管制上の謎のひとつである。



インマルサットでわかった反転とその後の飛行継続

衛星通信(インマルサット)は今回の事件で多くの貴重な情報をもたらした。ADS-BAutomatic Dependent Surveilance – Broadcast)と呼ばれるこの技術はGPSの位置情報を航空管制に送信しレーダーよりも正確な情報が得られる。現状ではこれを搭載した機体は1秒に1回位置を更新する。また衛星の拡充によりレーダーのブラインドスポットをなくすこともできる。ただし今回の場合にはトランスポンダーの電源を切ればADS-Bも機能しなくなる。


IGARIを経て北京に向かっていた機影は管制レーダーから消えたが、その後インドネシア軍のレーダーにより旋回して南西に進路を変更してインドネシア半島を横切ったことがわかっている。インマルサット社の3F1衛星を介した通信記録はPingと呼ばれるhandshakeがレーダーから機影が消えてから7時間飛行を続けたことをみいだした。


これにより7時間後の墜落視点はカザフスタンに伸びる円弧と南の円弧のどこかに絞り込まれた。インマルサット社の技術者はさらに3F1衛星の動きによるドップラー効果で衛星通信の周波数にわずかなずれが起こることを利用して、墜落地点が南の円弧上にあることを確認した、



墜落地点を含む円弧

一方南の円弧がオーストラリアにちかいことからオーストラリア海軍は捜索船Ocean Shieldで様々な海中捜索機材でブラックボックスからのPing信号を探したがすべての鍵を握るブラックボックスは発見されていない。


機長を含めた搭乗者のハイジャックの可能性も疑われ、実際乗客の3名は偽造パスポートを使った違法出国者だったことや機長が反政府運動に関わっていたことが明らかになった。今回の事件にはハイジャック説を裏付ける証拠はないが、出国管理機長の思想調査の甘さが指摘され完全にハイジャック説が否定されたわけではない。


Photo: EXPRESS

 


機体の一部と確認された漂流物 

一方、インド洋レユニオン島に打ち上げられた残骸がボーイング777のものであるとされるが、確認がとれないままにマレーシア政府はMH370のものと断定した。紆余曲折はあったにしても漂流物が機体の一部であることは確かなようだが、hアイジャック説では班員が故意に残骸を発見させた、とも考えられる。

 

米国の過半数の国民は911で国防省に墜落したとされるボーイング767機を真実と考えていないし、ペンシルバニア州に墜落したとされるユナイテッド93便についても疑いを持っている。いまわかっていることはインマルサットとの交信が偽装でないとすれば、最後のhandshakeをした地点で墜落したこと、機体の一部がインド洋で発見されたこと、だけである。

 


MH370の教訓

墜落の状況を知るためにはブラックボックスの解析が唯一の手段となったがPing発信はバッテリーの寿命を越えた現在では見つけだすことは不可能である。皮肉なことにこの事件をきっかけにブラックボックスのフライトデータレコーダーが異常な飛行を認識した時点で、記録と同時に飛行管制にデータを自動的に送信するリアルタイム通報システムが整備されることになりそうだ。

 

またADS-Bシステムも将来はインターネット上で特定の機体の位置情報を公開することによって、誰でも飛行中の位置を知ることができるようにするという。現在でもトランスポンダー情報はflightradar24で知ることができるが、ADS-B情報も公開されればブラインドスポットはなくなる。MH370によって航空管制の盲点が認識され、行方不明機が有りえない時代がくるだろう。尊い犠牲で進化してきた航空機と航空管制はMH370によって一段と進歩することになるだろう。

 


Photo: metro.co.uk

 

謎は深まるばかり

事故原因としては積載していた200kgのリチウムイオンバッテリー、電線過熱による出火等で一時的に電源が落ちたためトランスポンダーが切れ、その後は酸素不足で機長が意識を失って自動操縦で7時間飛行して墜落したという火災事故シナリオが有力となっているが、話がうまく出来すぎている。火災事故が深刻なら7時間も飛行できないし、警備なら緊急着陸出来たはずだからだ。第一ボーイング787で発火したリチウムイオンバッテリーは動作中の過熱であって積載貨物が自然発火することの確率は低い。

 

911の偽装事件を考慮すれば、墜落したとみせかけるように機体の一部を漂流させたとする見方もできる。真相は闇の中ではあるが機体の極僅かな一部がみつかったからといって単純に事故シナリオを特定することは危険である。謎だらけのこの事件の結論を急ぐ必要はない。多角的な視点で今後も捜索を継続する必要がある。またこの事件で明らかになった航空管制の盲点を一刻も早くなくすようエアライン各社が協力するべきである。

 

 偽装の可能性を考慮すれば漂流物が機体の一部であってもそれだけでは何もわからない。漂流物と一緒に中国製の飲料水ペットボトルが見つかっているが、それも手がかりにはならない。また機体の残骸が1点のみというのも不可思議である。残骸の一部が見つかっても謎は深まるばかりである。