Back-to-the-Futureが現実になる日

26.10.2015

Photo: mery.jp

 

2015年10月21日は映画Back-to-the-Futureの2作目でデロリアンに乗って未来を訪れる日である。スピルバーグが製作総指揮のこの映画は脚本が緻密にできていて3部作全部を見ると全体像がはっきりする名作である。さて映画のデローリアンは燃料としてプルトニウムあるいは雷の電力を利用するEV型タイムマシーンである。

 

2015年10月21日の意味

映画の主人公であるマーテイ(マイケル・フォックス)とデローリアンの発明者であるドク(クリストファー・ロイド)を起用して未来の車社会を描いたもうひとつのBack-to-the-FutureをCMとして製作した。もともと原子力あるいは電気エネルギーを燃料としていたデローリアンは一作目の最後でゴミを燃料として動くように改造される。そのアップグレードされたデローリアンが到着するのが2015年10月21日だったのだ。トヨタはこの機会を見逃さなかった。

 

トヨタのCMでは小汚いDinersでマーテイがドクと話し込んでいるシーンから始まる。映画で描かれた未来技術がどれだけ実現したかを語っている。(その中でマーテイができていないとこぼしていた自動靴紐締め装置のついた靴は実はナイキから発売予定。)そこにトヨタタコマ(注1)に乗った怪しげな自称科学者と名乗る男が現れて、自分はゴミを回収して車(実はMIRAI)がゴミを燃料として動くことを話してきかせる。

 

Photo: autoc-one

 

あっけにとられるマーテイだったがドクは男が出て行った後、「あいつは好きなタイプだ」といって楽しそうな顔をする。

 

(注1)トヨタタコマはテロリスト御用達のトヨタハイラックスの米国版のことである。アメ車に対応するためにフロント周りは相当に「盛られた」デザインとなっているが、荷台周りはハイラックスと同じである。CMで黒塗りのタコマが家庭を回ってあるく姿はテロリストにゴミ集めをしろといっているようである。

 

 

テロリスト御用達のタコマがゴミ集め

科学者の乗るタコマは黒塗りでいかにもテロリスト然としているが、この男は家庭をまわってはゴミ集めをしている。男の説明によるとゴミを集めて圧縮して腐敗してでる(メタン)ガスから電力で還元し水素ガスを得るという。誇らしげに未来の車を紹介するが出てきたのはトヨタのFCV、MIRAIだった。

 

低分子量炭化水素から水素を得る研究は世界各国で進められている。このCMでは有機物の腐敗で生じたガスを原料としているが、アウデイは空気中の温室効果ガス(CO2)を固定して、ゼロエミッションの人工デイーゼル燃料(Blue Crude)をつくる計画である。すでに工業的にはCOと水素から触媒反応で炭化水素をつくる手法はあったが、ここではCO2を何らかの触媒でCOに還元して水素化するところが新しい。

 

VWの不正問題で問題となった排ガス問題だが、純粋な人工デイーゼル燃料なら不純物がないためゼロエミッションなので、アウデイ社の研究開発によってクリーンな燃料をつくり原理的に問題解決をする矢先だったのだろう。VWにしてみればもう少し待てばクリーンな燃料をつくってみせられたのに...と残念だったろう。

 

 

いかにパラドックスを解決するか

話をFCVに戻すと水素ガスを大量につくるには生ゴミを大量に回収しても、水を水素と酸素に分解するにしても、触媒の開発が鍵となる。問題はうまくやらないと膨大な電力が必要となるパラドックスを抱えていること。結局クリーンな燃料をつくるために電力が必要でそのためにはコストの安い原子力を使う、というのでは意味がない。

 

光合成にヒントを得た触媒反応を利用する人工光合成の研究が世界各国で加速し、膨大な予算と研究者が投入されている。この技術が実用になれば水から水素と酸素を製造して燃料電池から電気エネルギーを得ることができる。ここまでできればドクも満足するだろう。現実的にはいまようやくその開発に各国が着手したばかりである。