アトラスVとウクライナ問題

Feb. 20, 2015

 

 ウクライナ問題は根が深い。ロシア制裁のあおりを受け天然ガス供給、原油価格問題、イラン核開発などエネルギー問題への影響に加えて、アメリカのロケット製造にも関わる問題が浮上している。アトラスVは寿命の長いロケットでロッキードマーテインの傑作だ。アトラスVの燃料はケロシンと酸化剤は液体酸素という定番であることも信頼性に寄与している。しかし1段目のロケットエンジンはロシア製RD-180で液体水素と液体酸素の組み合わせの2段目に採用するため、厳密にはアメリカ−ロシア合作という冷戦後の象徴になっている。


 ちなみに最初のアトラスはICBMとして空軍向けに開発されたが、液体酸素を酸化剤としたため、打ち上げが迅速に行なえないため、ICBMとしては使われていない。アトラスは民間打ち上げサービスに転用されることとなった。ここで取り上げたアトラスVは初期型のアトラスIIとは設計が異なる新規につくられたより大型でアトラスIIIの改良型となる。

 


打ち上げ成功率100% のインパクト

 完璧に近い信頼性に裏付けられたようにアトラスVのセールスポイントは打上げが完全に失敗した場合の打上げ費用を100%補償する保険制度である。もちろん他のロケット打ち上げサービスにはない特典である。アトラスVはシリーズ中最新型である。2002年の初打ち上げから全て打ち上げは成功していて他のロケットより信頼性の高さにおいて群を抜いている。


 将来計画としてはアトラスVHLVの打ち上げ能力はデルタIVヘビーにほぼ相当する静止軌道への25トンまでの投入である。さらにアトラスフェーズ2およびフェーズ2ヘビーがある。フェーズ2はアトラスVの1段目に、2段目を2基束ねたクラスターロケット、さらにフェーズ2ヘビーと呼ばれる発展型では1段目にアトラスVの1段目を3基、2段目に6基のアトラスV2段目エンジンを使う。

 


ウクライナ問題で足下をすくわれる

 アトラスVはEELVにボーイング社のデルタ IVロケットとともに採用されているため、当面のライバルはデルタIVだが思わぬ伏兵に見舞われる事になった。ウクライナ問題でロシア制裁によりロシア製の1段目エンジンRD-180納期に遅れがでているのである。そのため今後RD-180の自国生産の検討に入った。RD-180の販売に参画しているP&W社はロケットエンジンの自社生産能力とRD-180の大半の技術情報を持つとされるが、ロケットエンジン開発は時間がかかる。ライセンス生産でもしていない限り、P&W社製のRD-180が安定して供給されるには相当な時間がかかるだろう。


 ウクライナ問題は国際政治の枠を越えてエネルギー問題、EELVロケット戦略に影響しそうである。