増大する核施設攻撃と核物質盗難のリスク

20.01.2016

Photo:express.co.uk

 

冷戦時には誤って核ミサイルの発射ボタンが押されることが恐怖であったが、冷戦終結で米ソが歩み寄り核削減交渉が軌道にのると、今度はコードネーム”Broken Arrow”で知られる核弾頭の紛失・盗難が懸念された。21世紀の核リスクは何かといえば、今なお15千発ある核弾頭と原子炉を含む核施設へのテロ攻撃である。

 

核関連のリスクを警戒する専門団体(Nuclear Threat Initiative)の報告書によると核物質の厳重な管理にもかかわらず、核物質盗難、核施設サボタージュ・サイバー攻撃によりテロリストが放射能汚染をもたらすリスクが増大しているという。また英国でも昨年から原子力施設(注1)へのテロ攻撃を警戒する動きがある

 

(注1)一部に中国の原子炉を「ターンキー方式」で採用したため電力会社が原子炉の詳細を把握できずに運転することになることで、対テロ対策は困難になることは避けられない。

 

 

報告書は24カ国が1kg以上の核兵器級核物質を所有しており、世界全体では2000トンの核兵器級核物質が保管されているが、それらの盗難とサボタージュに対抗するセキュリテイ対策が十分でないとしている。

 

核物質の80%は軍が管理しているが、「核物質の取り扱いに関する国際間取り決め」に基ずいて管理されていないため、早急に核物質を所管する軍は取り扱いの安全基準に合意すべきとしている。

 

2014年に軍担当者が核物質の取り扱いの基準に従うための努力をしていた数カ国のうち、実現したのはたった一カ国であった。さらにIS、アルカイダ、ボコハラムなどの勢力拡大に伴い盗難リスクが高まった。

 

 

現在の盗難により核物質がテロリストの手に渡り核兵器(注2)が製造され、使用されるリスクは冷戦時よりはるかに高い。

 

(注2)核反応を起こさない濃度でもプルトニウムは放射性で毒性を持つため爆破して空気中を粉塵が拡散させる”Dirty Bomb”となる。日本の保有するプルトニウムの一部を米国が変換を求めているのも核不拡散の一環である。また核反応を起こさないウラン(劣化ウラン)でも粉塵は健康被害をもたらすため、高濃度ウラン以外でも注意が必要である。

 

 

核兵器級核物質を持つ24カ国中で核物質セキュリテイが最も高い国はオーストラリアで、日本の努力も評価されている。一方、核兵器を所有する国の中でフランス、米国、英国は最もセキュリテイが高い国のひとつで、米国、ロシア、英国のセキュリテイ向上は顕著とされる。核兵器を所有しない国の中ではスエーデンのセキュリテイが最も高くジブリ共和国のセキュリテイ管理も評価されている。

 

しかし高濃度ウランとプルトニウムの管理について改善がなされていない幾つかの分野が指摘されている。それらは輸送時のセキュリテイと核物質紛失時の対応についてである。このような隙をついてテロリストが攻撃を仕掛けたらひとたまりもない。これまでサイバー攻撃とサボタージュについてはリスクに入らなかったが最近のウクライナ送電網へのサイバー攻撃で全停電に至ったことや鉄塔への爆弾攻撃に内部の協力者がいた可能性も含め、これらのリスクが増大している。

 

 

問題は24カ国の半数ではサイバー攻撃の対抗策が皆無で、9カ国が核施設のハッキング対策を講じている。

 

 

核施設を国内に有する45カ国が施設内のサボタージュを防ぐ法整備に努力しているという。しかし脆弱性が明らかになったいまテロリストが核施設を標的とすることは時間の問題だ