フェルミラボが新しい素粒子を発見か

01.03.2016

 

Photo: physikBlog

 

 

 

フェルミ国立加速器研究所(フェルミラボ)のテバトロンといえばLHCができるまで周長6.3km、エネルギー1TeVの世界最大の円形加速器であった。陽子・反陽子衝突実験でトップクオークの発見など功績で知られるが2011年に実験を終了した。SF映画でもしばしば登場するテバトロンは西のSLACと並んで米国を代表する加速器として知られる。

 

 

 

引退したと思われていたテバトロンだが2011年間までの実験結果を整理して、新たな素粒子発見の可能性を示すことを発見した。この素粒子のフレーバー量子数は4個のクオークと反クオークを有する新しいものでテトラクオークとなる可能性がある。これまでの分類にない新粒子の可能性が高いとしている。(注1

 

 

 

(注1)つくばのKEKにある加速器KEKBBファクトリ)ではクオーク4個でできた新中間子X(3872)及びZ(4430)を発見している。これらはクオーク2個と反クオーク2個からなるハドロンではなく2個のメソン(中間子)からなる分子状態と考えられる。

 

 

 

新たに見つかった素粒子はこれまでに知られているメソン(中間子)やバリオンといった素粒子より多い4個のクオーク・反クオークペアを有する。メソンはクオーク・反クオークペアでできており、バリオンは3個のクオークからなる。これに対してテトラクオークは4個のクオーク、ペンタクオークは5個のクオークで構成される。

 

 

 

実験データの解析により新素粒子X5568)は4組のクオーク・反クオークペアでフレーバー量子数(ボトム、ストレンジ、アップ、ダウン)を持つ(注2)ことがわかった。素粒子XBメソン(B中間子)とパイメソン(パイ中間子)に崩壊する過程で発見された。テバトロンはすでに閉鎖されているが、2002年から閉鎖直前の2011年の間に行われた実験結果の解析が新発見につながった。(通常、加速器はエネルギーフロンテイアで当初の実験を行った後、ルミノシテイを上げた精密実験により可能性のある事象を検証するが、運転終了している加速器ではそれができない。運転期間中に溜め込まれた膨大なデータを解析して今回のような新しい結果を導き出すには相当な時間と努力が費やされた。

 

 

 

(注2)クオークはアップ、ダウン、チャーム、ストレンジ、トップ、ボトムの6種類が存在する。

 

 

 

フェルミラボの発表によると通常のB中間子やパイ中間子は弱い相互作用で崩壊するが新粒子は幅広い質量を持つ粒子に崩壊するため強い相互作用を示唆している。研究チームは構成要素については不明な点が多く、研究チームは「エキゾテイック状態」を追い求めてきたが、これまでに観測された「エキゾテイック状態」と考えられていた幾つかの候補は、同じフレーバー量子数を持つクオーク反クオークを含むため、エキゾテイックとは呼べなかった。今回発見された粒子は4個の異なるフレーバー量子数を持つ。

 

 

 

クオーク・反クオークは強い相互作用で結びついているかもしくあ強く結びついたクオーク・反クオークペアが交換されて生じた可能性がある。新粒子の性質を調べることによってその素性(構成)やクオーク・反クオークを結びつけている力の正体が解明される。現代の加速器の衝突実験では複数の検出器が備えられそれぞれが大量のエネルギー、位置、時間情報が含まれるために運転期間中のデータを実験に参加あるいは協力する多数の研究者がデータを共有し同時に解析する。そのため今回のように停止から5年後に新粒子が発見されることも珍しくない。