北朝鮮への制裁で高まる戦争リスク

10.03.2016

Photo: asiawind

 

韓国のTHAAD配備及び北朝鮮への制裁(北朝鮮制裁決議2270号)と米韓合同演習に強く反発する北朝鮮軍は310日日本海に向けて短距離弾道弾ミサイル2発を発射した。飛距離が約500kmであることから「スカッド」と考えられている。米韓合同演習は37日から430日まで続くことから、この期間内に北朝鮮の威嚇行動がエスカレートし一触即発の危険性が高まっている。

 

2008年の北朝鮮の貿易の内訳(下の図)によれば北朝鮮の輸出の38%が韓国、42%が中国で韓国と中国で80%を占める。また輸入は同様に韓国、中国が25%57%で両国からの輸入は82%で輸出入のほとんどが韓国と中国との間の交易によることがわかる。このため制裁の効果に両国の寄与が大きく影響する。

 

今回の制裁では中国の参加が注目される点で、軍事行動に欠かせない航空機燃料とエネルギー源である石炭の中国からの輸入が制裁の対象となる。THAAD配備については中国も反撥しており北朝鮮包囲網は完全に足並みが揃うわけではないが、制裁決議に中国が同意したことは北朝鮮の核保有とミサイルへの搭載を中国が強く警戒していることを示す。

 

 

Source: Radio Freethinker

 

北朝鮮と韓国の軍事バランスは米軍なしでは陸戦能力において北朝鮮が圧倒的に優位に立っている。北朝鮮の歩兵950,000人に対して韓国軍は560,000人。戦車が3,500台と2,750台。旧式ではあるものの航空機がそれぞれ110,000機と64,000機。このため国境に近いソウルは戦争が始まれば短期間で北朝鮮軍に占領されるとみられている。

 

 

しかしそれ以上に東アジアの安全保障に関わる問題は核保有の有無とそれをミサイルで運搬できるかどうかである。北朝鮮のミサイル発射実験は1993年から始まり短距離弾道ミサイル「スカッド」をはじめとして中距離弾道にまで到達距離が増えた「ノドン」、「ムスダン」、米国が射程に入る大陸間弾道ミサイル「テポドン2」に潜水艦発射ミサイルまでを所有している。

  

 

米国が最も懸念するのは核兵器の小型化(特に水爆開発)でテポドン2に搭載されること。前者については最近キムジョンウンがインプロージョン型原爆とみられる写真が公開され、水爆完成かと話題になっている。写真では水爆(熱核反応)の全体像がないため起爆装置に当たるインプロージョン型原爆(注1)で水爆完成の証拠にならないが、開発を継続している。

 

(注1)原爆の形式の一つ。ウランを32分割して球状に配置し、爆発速度の異なる火薬を用いて一点に集中させ臨界を超え核反応を起こす。長崎型原爆と同じ方式で、開発にはロスアラモス国立研究所に集結した物理学者たちの長期にわたる研究開発の賜物であるが、現在では計算機の発達により設計は容易になった。

 

正確な北朝鮮のミサイル保有数は不明だが核兵器が完成されたとして運搬できる弾道ミサイル総数は140、航空機20機に巡行ミサイルと潜水艦発射ミサイルが加わる。(注2)

 

(注2)ノドン200発は日本に向けてセットされており、中距離弾道ミサイルと長距離弾道ミサイルをそれぞれ数100発保有しているとする情報もあるが、搭載できる核兵器の保有数は大幅に少ない。ただし米国の誇るバンカーバスターでも山中深くにあるとされる保管場所と地下サイロの特定ができないため、爆撃では効果が期待できない。

 

 

制裁効果についても過去の制裁に対抗するルートを持つと考えてよいだろう。航空機燃料と一般エネルギー源(石炭)の制裁効果が北朝鮮の威嚇行動をエスカレートさせ戦争が勃発するとしたら、地上戦とミサイルによる先制攻撃しか北朝鮮が戦果を挙げる見込みはない。

 

 中国の制裁内容

1. 北朝鮮への原油供給の全面的な停止(空軍用とロケット用燃料に限る)

2. 海外の北朝鮮国籍者への送金停止

3. 貿易の全面中断(大量破壊兵器と無関係の地下資源の輸出及び対中繊維輸出は除外)

 

過去最高に厳しい制裁内容とされるが、いずれも条件つきであり効果に疑問の声も上がっている。

 

日本の独自制裁で北朝鮮国籍者の入国禁止措置と送金停止措置が追加されたが、これにより北朝鮮も対抗措置として拉致被害者調査を中止している。中国は北朝鮮船籍の貨物船の入港を阻止するとともに停泊中の船の出航も禁じている。またフイリピンは北朝鮮の貨物船を差し押さえた。