中東で原子力発電所の建設ラッシュ

May 21, 2015


Photo: Utilities-me.com 


 中東地域では、イラン以外にトルコ、ヨルダン、アラブ首長国連邦(UAE)、エジプトで原子力発電所の建設が進んでいる。各国の建設を請負っているのがロシアの国営原子力企業のロスアトムである。


 中東諸国が原子力発電所の建設を進める背景には2つの大きな理由がある。 

まず、2012年から稼働を始めた原子力発電所と核兵器への転用が可能なウラン濃縮技術をイランが持っていること。中東における安全保証の均衡を崩す脅威である。その対応策として、原子力発電所の建設により各国は原子力技術を獲得しようとする思惑がみえる。核兵器製造への道はふたつ。イランのようにウラン濃縮をしてウラン型原爆をつくるか、原子炉でウランを核燃料として副次的につくられるプルトニウムを使い、プルトニウム原爆をつくるかである。



 中東の湾岸諸国は豊富な石油や天然ガス資源をもっている。しかし、人口増加や国民の生活水準が上がるに伴って国内消費を増加させると、外貨獲得源である輸出用の石油や天然ガスが減少する。今後、必要とされる電力の需要をどのように調達するかが課題であった。その答えとなったのが、電子力発電所による供給である。また非産油国は化石燃料に頼らない電力の安定供給源の確保を目指して開発した原子炉技術の輸出を狙う。


 さらに、21世紀は資源が重要な国家の経済、政治上の影響力となるため、湾岸諸国は石油と天然ガスの輸出を利用して優位に立ちたい戦略がみえる。



Image: The Middle East Times 

 

 上の地図の記事では2025年までに中東で新設される原子炉は15基となっているが、ここで伝えるようにそれ以外に新設されるので、中東は世界でも有数の原子炉密集地域となる。

 

 

トルコ

  非産油国であるトルコは、ロシアやイランの石油と天然ガスの輸入に依存している。ウクライナ情勢やイラン核問題で、同国のエネルギー安全保障上、原子力発所の建設は必要不可欠と判断した。

 

 トルコは2020年までに3基の電子力発電所の建設を計画している。総発電量は3,600メガワットとなる。4月にはロシアのロスアトム(Rosatom)との合意で地中海に面しているAkkuyaに建設費200億ドルのトルコ初の原子力発電所の建設が始まった。2つ目の原子力発電所は三菱重工業とフランスのアレバの企業連合で黒海に面しているSinopでの建設計画がある。3つ目の詳細は公表されておらず、建設場所も未定である。


 

ヨルダン

 ヨルダンは原油の98%を輸入に頼っている。人口の増加と産業活動の拡大で電力の需要は毎年7%増加している。2013年にはロシアのロスアトムの受注が決まり、今年の3月に正式合意を結んだ。総額建設費は100億ドルで、総発電量は2,000メガワットである。原子力発電所は2箇所、最初の施設の稼働は2022年、2番目は2024年に予定されている。原子力発電所の建設により、ヨルダンの電力需要の約40%は供給できるとされる。


 

アラブ首長国連邦(UAE)

 UAEは2017年には同国初の原子力発電所が稼働する。2番目は2018年、2020年までには、4箇所の発電所で総発電量5,600メガワットが可能となる。電力需要の25%を供給できるとされる。ロスアトムとは原子力開発協定を結んでいるが建設自体はサムソンと関連会社の連合が着工している。


 

エジプト

 エジプトは2月に地中海に面しているアレクサンドリアのDabaaに初の原子力発電所の建設をロスアトムと正式契約した。原子炉4基で総発電量は4,800メガワットである。ロスアトムにとって、米国の同盟国で米国企業による競争が最も激しい市場であるエジプトで、勝利したことはロシアにとっても重要な意味を持つ。


 

 2050年に世界のエネルギー需要は倍増すると予測されている。不足する電力を手っ取り早く確保するには、短期的にみれば原子力が手っ取り早いし、同時に核兵器も手に入る。石油マネーで原子炉を購入することは容易だが、原子炉の維持に自国で技術者を養成したり、核廃棄物処理工場を建設することに、ロスアトムとの交渉にみえていない資金をつぎ込む覚悟があるだろうか。

 

 しかも石油マネーで電力需要をまかなうことができるのは周辺地域に限られる。ますますエネルギー格差が拡大するだけで、世界のエネルギー不足が解決されるわけではない。先進国も売り込みに際して、核燃料処理も含めた「責務」を明らかにすることが必要だ。また際限のない世界のエネルギー需要にただ答えるだけではなく、同時に省エネ技術、再生可能エネルギーに向かうように指導する責務を先進国は持たなければならない。