自動操縦の盲点 "Coffin Corner"

June 14, 2015

Phto: Flicker 


 エアーアジア8501便(A320-216)は2014年12月28日にインドネシアのジュアンダ国際空港からシンガポールのチャンギ国際空港に飛び立ったが乗客乗員162名を乗せて洋上に墜落した。事故原因の人的要素は不確定だが高度を上げすぎて失速しやすい”Coffin Corner”に陥ったのが原因とみられている。


 "Coffin"は棺桶。文字通りここに陥れば自動操縦なしには棺桶に入るようなもの、という表現だ。しかもその自動操縦もセンサー入力が正しい、ということが前提となる。センサー入力が正しくなければその限りではない。



 上の写真の姿勢表示計には仰角(ピッチ)、左右の傾き(ロール)、高度(右側)、速度(左)などが表示されている。これらが信頼できる値であることを前提として、高度に依存して決まる速度範囲内で機体を水平に保つ操作は容易ではない。そこで複数のボードコンピューターから構成される自動操縦システム(A320では7台)が制御を行う。制御自身は完全でも問題は入力(センサー)が正しいかどうかである。


 Photo: The Fabius Maximus website

 

 当日の付近の天候は激しい雷雨に見舞われており、積乱雲を避けて高度を上げた直後に失速して墜落したことがわかっている。高度を上げるとジェット機に許される最高速度と最低速の間が狭まっていく。

 

 高度を極端に上げると許される飛行速度の範囲は著しく狭まる。この狭い領域を”Coffin Corner”と呼ぶ。少しでも逸脱すれば失速の危険があるからだ。エアーアジア8501便の場合は、積乱雲に突入後、通常の操縦では不可能な最大9,000フィート/分で上昇後、高高度で”Coffin Corner”に陥り失速された可能性が高い。

 

 急激な上昇は積乱雲の中の上昇気流による可能性が高いこと、また自動操縦が解除されたことはピトー菅が氷結してセンサー入力が得られなくなった可能性(注1)も指摘され、当日の悪天候により”Coffin Corner”に陥ったがその場で適切な処置(機種を下げ対地速度がついてから機体を水平に保つ)がなされなかったと考えられる。

 

(注1)2009年6月1日、エールフランス447便(A330-200)がブラジルのリオデジャネイロを出発しパリに向う途中、ピトー菅が氷結し自動操縦システムが機能しなくなりパイロットも速度データが得られないまま、高高度に上昇し”Coffin Corner”に陥って失速し墜落した。

 

 機長がコックピットを離れていたなど人為的な要因も関係している可能性もある。しかし高高度において”Coffin Corner”に陥った際の処置は高度の操縦技術であるので、事前にシミュレータ訓練のメニューに入っていたかどうかは定かでない。

 

 “Coffin Corner”に陥った場合、失速して航空機は降下率が高くなり失速警報が鳴り響く。この状況で落ち着いて操縦桿を倒して機首を下げなければならない(注2)。

 

(注2機体は下降するから機首を上げて(操縦桿を引いて)上昇の体勢をとりたくなる。実際にこれを行うと機首が上を向き仰角がさらに増すことになる。しかし速度を上げるには機首から突っ込むつまり通常とは逆に、操縦桿を倒さなければならない。これが操縦士を混乱させることになる。ちょうど高速でカーブを曲がりきれないときにカウンター(逆ハンドル)をあてるようなもの。