サウジアラビアが原子炉建設を急ぐ理由

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Photo: the Kompass


 サウジアラビアはロシアの国営原子力総合企業ロスアトム社と今後20年間に計画している原子炉16基、約1,800万kWの電子力発電所のトータルシステムにおける協力協定を結んだ。これにより2040年までに17GWの電力供給が可能となる。


 サウジアラビアはこれまでに原子炉建設に関して、米国、フランス、ロシア、韓国、中国、アルゼンチンと協力する合意を得ていた。今回の協力協定でサウジアラビアがロシアとの連携を深めるとみられている。


 写真はロスアトム社の原子炉AES-2006。ロシア型VVERと呼ばれるこの原子炉は1970年から改良が加えられ低コストで安全な運転ができるとされる。出力3,200 MW、発電能力1,200 MW。


 サウジアラビアは2012年度の電力需要は全て火力に依存していて年率5-7%の伸びで増大している。2012年に2032年までに17GWの原子力発電所と41GWの太陽光発電能力を備える計画を発表している。原子炉と太陽光発電によって自国の原油を火力発電に回す必要がなくなり、この分を輸出に回すことができる。



 これより前、2006年に湾岸諸国(クエート、サウジアラビア、バーレーン、カタール、オマーン)原子力平和利用に関するフイジビリテイスタデイに着手することを発表、フランスとイラクが協力を約束していた。2011年に、サウジアラビアは韓国と原子炉建設の建設で覚書を取り交わしていた。


 サウジアラビアの電力需要の増大は人口が増大したことが根底にある。1960年の400万が2014年には3,000万人となった。サウジアラビアの電力需要は湾岸諸国でも際立っており、2012年には150TWhを石油、121TWhが天然ガスを燃料とする火力発電で賄われている。化石燃料の消費は原油、天然ガス産出量の1/4に達する。


 サウジアラビアの電力供給網は60Hzで湾岸諸国と整合性がないため輸入はできないこと、原油産出量は増やせないことから、電力需要を満たすには原子力と再生可能エネルギー(太陽光)の利用が現実的と判断した。



 さらに電力は海水から逆浸透で真水をつくるプロジェクトで30,000m3/日あたり10MW必要なことからも、必要であった。海水の淡水化施設は2020年までには太陽光で運転する予定である。


 このような事情から2009年にサウジアラビア政府は原子炉開発を決めた。2010年から技術調査を開始、2013年には原子力発電会社も設立された。2011年に20年で16基の原子炉建設を進め、並行して再生可能エネルギーの積極利用を進めることとなった。ただし2032年の電力需要の半分は化石燃料としている。


 

Photo: FENNOVOIMA

 

 2013年9月にはGE-日立、東芝-ウエスチングハウスグループが売り込みを開始、アレバ社もフイージビリテイスタデイを共同で行う契約を結んだ。2015年には海水の淡水化事業ように韓国製の小型原子炉を少なくとも2基建設する覚書を結んだ。韓国が中東向けに開発した小型原子炉「SMART」の販売に弾みがついた。2015年にはさらにアルゼンチンと海水の淡水化用の小型原子炉開発を目的としたジョイントベンチャー企業INVANIA社を立ち上げた。

 

 原子炉建設には国際的な合意が必要である。サウジアラビアは2011年にはフランスと、2014年にはアルゼンチンと協力関係を結ぶとともに、2011年に韓国、中国と原子炉本体だけでなく炉心開発や使用済み核燃料廃棄技術を含む包括的な技術協力を結ぶ。


 

 これらの国々は自国の原子炉輸出を考えていたことはいうまでもない。各国の売り込み競争は熾烈になるが、2015年にロシアのロスアトム社と原子炉16基、約1,800万kWの電子力発電所のトータルシステムにおける協力協定を結んだ。

 

 ロスアトム社の原子炉選定に結びつく今回の協定は、原子炉の性能、コストの要因の他にサウジアラビアが米国依存から離れ、ロシアと急接近している背景がある。