全国民が登録するDNAデータバンク

July 4, 2015

Photo: de Gelderlander

 

 6月26日に、クウェート市内のシーア派モスクで金曜日礼拝中に起きた自爆テロ事件は27人の死亡者と227人の負傷者をだした。この事件をうけ、クウェート政府は治安強化策として、全住民のDNAデータバンクの設立を決定した。

 


DNA検査の義務付け新法

 対象となるクウェート国民130万人と在留外国人 290万人の全ての住民のDNAデータがデータベースに登録されることになる。犯罪者ではなく、一般市民を対象とする大規模DNAデータバンクの設立は世界で初めてである。DNA サンプルの提出に関しては禁錮刑が科される。提出を拒否する住民には、最高で禁錮1年と3万3000ドル(約406万円)、DNAサンプルを偽装した場合、最高で禁錮7年となる。



世界のDNAデータバンク

 犯罪者DNAデータバンクはすでに、米国、ドイツ、イギリス、フランス、ニュージーランド、オーストラリア、カナダ、ブラジル、インド、ノルウェイ、ベルギー、中国、日本など先進国の多くに国内データバンクとしてあり、各国の警察機関が情報管理している。


 国際刑事警察機構 (International Criminal Police Organization: ICPO) インタポールに加盟している190カ国のうち59カ国(2011年)は自国の犯罪者DNAデータバンクをもっており、その情報をインタポールに提供して、インタポールの中で犯罪者の特定と追跡に情報が共有している。


 中でも、米国FBIの総合DNAインデックス・システム (Combined DNA Index System: CODIS) の登録者数は1,100万以上で世界一である。もともと性犯罪者のデータ収集で始まったこのシステムは、今では有罪となった犯罪者だけでなく、逮捕者のDNAが登録されている。5月の最高裁判所の判決で、逮捕者は本人の容認がなくても、警察によるDNA採取は強制となったのである。たとえ逮捕後に無罪が証明されても登録データは残る。



Photo: coloradoan.com

 

 CODIS のシステムには身元不明遺体や行方不明者とその家族のデータが登録されている国家DNA インデックス・システム (National DNA Index System: NDIS)が含まれている。その他にも反テロDNAデータバンクがある。逮捕されなくても、国境、港、空港で尋問を受けたてテロ容疑者と見られる人物、テロ現場に残されたDNA、テロ活動に関わりがあると疑われる人物などが登録されている。

 

 米国とは反対に、10歳以上の逮捕者のDNA採取が可能であった英国では、逮捕者のDNA採取は違法となった。2008年にヨーロッパ人権裁判所は、有罪となった犯罪者以外のDNA採集は人権侵害とする判決を出した。その結果に続き、2012年に成立された自由保護法で、600万人の未成年や無罪となった逮捕者のDNAサンプルが処分され、データバンクから除外された。



 

英国の全国民DNAデータバンクの設立計画

 遺伝子技術に関する調査を行っている非営利団体のGeneWatchによると、英国の国営医療サービスである国民保険サービス (National Health Service : NHS)は、英国のすべてのDNAデータベース間の情報共有による英国の全人口のDNAデータバンクの設立を進めているとしている。

 

 これは国民保険サービスのデータベースにあるDNA情報を含む医療情報、犯罪者DNAデータベース、行方不明者DNAデータベース、危険性の高い人物DNAデータベース、警察関係者DNAデータベース、反テロDNAデータベースを統合して一つの国家DNAデータバンクの設立となる。

 

 国民保険サービスの2013年の計画案によると、医療現場から取集したDNA情報を含む医療情報を民間企業に提供、民間企業との提携で、全ての国民の個人情報が警察、社会福祉関係者、政府が簡単に入手できる情報システムの開発を目指すとしている。


 

 

クエートにDNAデータベースを整備する意味

 クウェートでの自爆犯人はサウジ国籍のISメンバーで, サウジアラビアからバーレイン経由でクウェートに入国した。クウェートの全住民のDNAのデータバンクを作っても、今回のような他国から入国したテロリストの活動を防止するのは難しいのではないだろうか。

 

 クウェートに続き英国でDNAデータバンクの設立の動きがあるが、何故クウェートから始まるのだろうか。クエートは国王の判断で国民のDNA登録を義務化できる。英国では国民の議論なしに進められている。将来、各国も追随して整備していく方向に向かっていると考えられる。クェートや英国はそれらのモデル国家となるかもしれない。