TIがTPAを支持する5つの理由

June 16, 2015

 

Photo: CCC


 米国大企業によるTPP成立への圧力は急速に高まりつつある中で、最も影響力の大きい産業のひとつである半導体産業の代表格テキサスインスツルメンツ(TI)がTPP成立に必要なTPA(Trans-Pacific Partnership)を支持する声明を出した。関税撤廃を求める米国産業の声を反映したこの声明にTPPの本質(関税撤廃)がみえてくる。

 

 TPP成立への一里塚であるTPAは通商交渉の権限を大統領に委ねる法案。成立された通商協定は議会で容認が求められるが交渉一任法のため、議会に通商協定の内容に関する議論や修正権はない。


 米国議会は議会と政府が貿易交渉で協力しあいTPAを実現するための超党派の法案が議会で承認された。テキサスインスツルメンツ(TI)はこれを支持する5の理由について説明するが、いずれも企業側の論理でありいってみれば自社の利益を守るために政治(貿易協定)を使うことを宣言したと読める。


理由1) 自由貿易はTIの成長に不可欠であり、顧客にTI製品を提供する機会を与える。TIの利益の90%は製品の輸出によるものであり、そのうち61%がアジア、18%が欧州向け輸出である。TI製品の自由貿易が米国の競争力堅持のために必要である。


 例えばテキサス州で設計し製作されたICチップは国外の組み立て/試験工場に運ばれシンガポールの集積施設に運ばれて各国の顧客に供給される。


理由2) 半導体産業は自由貿易で成功した産業の代表である。2013年度の統計によれば世界(99%)の半導体チップの売り上げは7,030億ドルで、米国産の半導体が3,360億ドルで半分に達する。(注1)


(注1)TIが強いのはアナログIC部門。2014年の半導体総合売り上げランキングのトップ3はIntel、Samsung、Qualcom。米国勢のシェアは33%で、TIはToshibaについで総合7位。したがってこの表現は適切でない。半導体総合売り上げ全世界では3,140億ドル。


 半導体ビジネスは15年間に渡り米国のトップ3の輸出産業であった。半導体産業の海外展開には関税撤廃が必要である。例えば1996年のInformation Technology Agreementのような貿易協定が、世界市場のシェアを確保するのに大きな役割を果たした。下のアナログICチップの上位3社(米国企業)で40%近くを占める。

 

 


理由3) TPAはTPPの可決に必要不可欠である。TPPにより顧客はTIのよりよい製品とサービスを手にいれることができる。TPAは自由貿易協定で関税障壁を取り払い米国の世界市場へのアクセスが容易になるTPPやT-TIP(Transatlantic investment Partnership)法案が議会で成立するために必要である。

 

 TPPは世界のGDPの40%と交易の15%を占める環太平洋12カ国が平等に自由貿易を行うための枠組みであり交易を増進させる一方で、TIの知的財産を守る。

 

 米国とEUは世界のGDPの50%と貿易の30%を占める。1930年代から2007年に至るまで米国の大統領は貿易交渉の締結の権限を持ったが、TPAの枠組みでは議会が承認の権限を持つことになる。

 

理由4) TPAは超党派体制で取り組むべき課題である。オバマ大統領はTPAを最優先事項とし、民主党、共和党のリーダーに超党派体制で取り組み年度内に結果を出す(法案を成立させる)よう要請した。TIは以下の法人組織と連携をとりながら法案が可決するよう求めていく。

 

Trade Benefits America Coalition

Semiconductor Industry Association

Information Technology Industry Council

Business Roundtable

National Association of Manufacturers

 

 以上の声明には議会でのTPA年内可決を成立させる強い意志が汲み取れる。裏を返せば輸出産業のためのTPPという構図が明確になる。ちなみにTIの2014 年第4 四半期および2014 年度の業績は好調だが、世界全体の電子産業の需要の鈍化と製造コストの増大により大規模リストラの末の数字で、浮き沈みの激しい半導体産業にあって、新たな市場開拓をTPPに託したということだろう。


 事実、TPPを巡る企業側から議員へのロビーイングは、膨大な政治献金にまでエスカレートし、政府が企業の代弁者となるに至った。