Kit Carとシャオミ

Nov. 8, 2014

 

 最近では完成品の販売でなく一部の組み立て工程をカスタマーが好みに応じて自分で行い、完成させるという、"Developer's Kit"に注目が集まっている。車の世界では"Kit Car"というジャンルが存在する。数億円のスーパーカーを自分の好みに合わせてオーダーしても所詮、「セミオーダメード」の範疇をでない。世界で1台といってもお金を積めば同じ物が手に入るからだ。


 しかし3Dプリンタで車を製作できる今日では、"Kit Car"を購入して、自分なりに手を加えアップグレードして、正真正銘の世界に1台しかない車を手に入れることができる。写真のSaker GTはSaker sportscarsという会社が販売するスーパーカーである。この会社はオランダでレーシングカーを安価に販売して来た会社で、キットにはレーシングカーづくりのノウハウが生かされた本物である。


 欧州に拠点を置くため最新の部品を専門企業から集めて用意されるキットは高いレベルにあり、ポルシェやフェラーリ顔負けの車をつくりあげることができるのだ。お金を使えば手に入るわけではないのが本当の贅沢といえるだろう。


 またより低価格の小型スポーカーキットは米国のFactory FiveがスバルWRXをベースとしたKit CarのFactory Five 818Sを販売する。自動車といえば2-3万個の部品からなり、主要パーツ(エンジン、ギアボックス)を自作するのは不可能だが、これらを調達して組み合わせる技術があれば、レゴブロックを組み立てるのと同じように、複雑な車体が組上げられ、それぞれのパーツに高性能のものを調達すれば、性能は保証される。つまり開発主体が部材調達能力に変わって来た。また走るためのもの以外は考えないスポーツカーだと部品数が少ないのでメカニックの経験があれば組み立ては簡単なのだ。


 車と関連がないようだが、今年にはいってシャオミという聞き慣れない中国のメーカーがいきなりスマホ市場の3位に躍り出た。この会社の製品は(デル方式つまり通信販売で販売店がないため)低価格にできたためシェアが急激に増加したが、安い部材をつかっているわけでなく、最新の部材を選んだ設計能力がSamsung並みであった。つまりスマホの世界でも個々のパーツの自社開発能力より、部材の目利きとそれらを組み合わせて、目的の性能を出す設計能力が問われている。部材といっても複雑な機能を持つCPU、MPU、通信ユニット、バッテリーなどに技術が集約されていれば、それらの組み合わせで全体の性能が決まってくる。最新のものを選ぶとなると選択肢は限られる。


 組み合わせ技術の競争になると自社あるいは系列製品の調達に縛られる日本企業に勝ち目は無い。Kit Carにしてもシャオミにしてもこれまで大手企業が蓄積して来た部材の開発体制は削ぎ落した組み立て産業が競争力をつけてきたことを示している。


 Samsungですらシャオミの射程距離に入った。レーシングカーのDNAを受け継いだSaker GTもフェラーリやポルシェの市販車と同等以上の戦闘力を有している。大企業とひと味違う製品、完全なオーダーメードのスポーツカーや最先端の部材を組み合わせてスマホを製造する企業が増えている。顧客であるか売り手であるかは別にして、「組み合わせ」文化なのである。