矛盾するエネルギー施策の意図

Nov. 29, 2014

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



 米国は2008年9月のリーマンショックにより、世界規模の金融危機を招いた。米国発の経済危機は世界各国の経済成長に大打撃を与えて来た。圧倒的な金融緩和で(統計的には)持ち直したかのようにみえるが、実態はどうなのか。金融危機を救えても、実体経済はついてこない。そのため米国は実体経済の復活を狙った予算方針を立て続けに打ち出して景気対策に力をいれている。


 米国の2014年度の国家予算総額は3兆7700億ドル(370兆円)であった。財政赤字のGDP比率は2013年度6%であったがこれを、2023年度に1.7%を目標としてゆるやかな支出削減をとっている。そのため2009年を境に予算削減が実施され、2014度の国防予算は2012年度比で0.7%減となったが、研究開発予算全体は1.3%増であった。

 


実体経済再興へ向けて

 内訳をみるとDOEの2014年度予算は2012年比で17.8%増、NSFは91.1%増、大口のDODは0.7%減となっている。2014年度予算の目玉は実体経済の増強のための「製造イノベーションネットワーク構想」である。このためには持続可能な米国先端製造を再興するため、国家的枠組で先端製造戦略を確立すべきであるとしている。


 具体的には製造イノベーションネットワーク官民パートナーシップとして産業コンソーシアムと大学、又は国立研究所が受入れ先となる「製造イノベーションネットワーク研究所」を拠点として、産官、産学連携と技術者養成で中小企業を先端製造企業にレベルアップしようとするものである。そのため最も産業に近い国立研究機関NISTの予算は倍増という異常なテコ入れがなされている。地方のコミュニテイカレッジや退役軍人を先端製造の人材として活用するなどこれまでにない、「本気度」がみてとれる。

 


グリーンエネルギーへの回帰

 一方で現政権が力を入れて来たエネルギー政策を統括するDOE関連の研究開発予算も重点投資の対象である。2008年のリーマンショックを受けて翌年誕生した第一期オバマ政権は、ノーベル賞学者のリーダーシップで風力、太陽光など再生可能エネルギー(注)の活用や環境技術への投資を景気回復、雇用創出の柱の一つとする「グリーン・ニューディール政策」を掲げた。


(注)再生可能エネルギーには以下の項目がある。米国はこのうち、太陽光、太陽熱、風力、バイオマス、地熱を積極的に利用する計画である。


・ 太陽光—ソーラーパネルによる発電など

・ 太陽熱—太陽熱を集光し、熱水を作りその蒸気でタービンを回し発電するなど

・ 風力—風車による発電など

・ 地熱—高温源泉による蒸気による発電や、マグマを利用した発電など

・ 水力—貯水式ダムや水車による発電

・ 潮力—潮の満ち引きで生じる海面差を利用した発電

・ 海流—寒流・暖流など潮の流れで水車を回す発電

・ バイオマス—植物からエタノールや軽油・重油を作る

・ ヒートポンプ—エコキュートなどの大気・地熱などを利用したシステム

・ 燃料電池—水素やアルコールと大気中酸素の結合反応を電気エネルギーとして取り出す


 

クリーンでないグリーンエネルギー

 しかし米国のようなエネルギー大国(注)には消費再生可能エネルギーに頼れば、生産の減速を余儀なくされるため、安全策として「グリーン」の範疇を拡大し原子力、天然ガス、クリーンコールを加えて「クリーンエネルギー」と再定義し、それら全般への投資拡大、利用促進を図る方針に舵を切った。エネルギー供給の安定化を産業基盤として周辺に、雇用の創出を図る政策を進めて来た。


(注)世界の25%のエネルギーが米国で消費される。一人当たりの消費は日本、欧州の倍である。(IEA2004資料)


 

 結局、米国のエネルギー基本戦略は、(再生可能エネルギーに限らず)国内の利用可能なあらゆるエネルギー資源を活用して、エネルギー自給を高め、最終的に外国石油への依存を軽減していく「エネルギー独立戦略」である。米国は原油の生産国であると同時に、世界1の輸入国であった。ちなみに2013年のトップ3は米国、中国、日本で米国の輸入量は日本の倍であった。

 


シェールオイル革命

 しかし2014年は転機の年になった。シェールオイル革命と呼ばれる国内のシェールオイルの増産により、初めて輸出量が輸入量を超えたのである。シェールオイルの掘削には環境保全の問題があるにもかかわらず、強引ともいえる増産に踏み切った。採算ラインが生産量に依存することもあるが、相次ぐ増産により原油産出国となった米国。このため米国向けで生産された原油はダブつくことになり7月頃から原油価格の急落が続いている。これには需要が過多になったことによると同時に、世界的な経済減速が加わったとみるべきだろう。


 

 革命と呼ばれるシェールオイルは環境保全以外に、様々な弱点があるが、最大の欠点は掘削を継続していないと生産量を維持できないことである。スケールを上げることで短期的に増産できても、すでにピークを過ぎて枯渇しつつある原油の「持続的生産」は無理がある。それでも枯渇を目の前にみながら、そしてグリーンエネルギーを掲げながら、化石燃料の増産に走る理由は何だろうか。

 


原油下落のインパクト

 11月27日のOPEC総会では最大の産出国であり発言力の大きいサウジアラビアは減産に踏み切らなかった。このため原油価格の下落はしばらく続くと思われるが、シェールオイル採算ラインを割り込めば米国の掘削業者は打撃を受けることは必至である。

 

 スケールアップで採算ラインの引き下げについていける内はいい。採算ラインに近づいた時に何が起こるか予測できないが、正念場を迎えそうである。何故米国が原油を国内生産に切り替えたのかは推測の域をでないが、オイルドラーを敬遠する世界的な動きに備えたのだろうか。サウジアラビアが減産に踏み切らなかったのは、ダブついた原油の引き取り相手がみつかったためだという。彼らにとって邪魔な存在であったシェールオイル潰しにともなるのか。