血液一滴で感染症がわかるVirScan

July 25, 2015

Photo: WIRED


 ヒトの微生物叢を構成する細菌ウイルスメタゲノムが人間の健康や免疫に深く関わっているが、現在可能な感染を知る手法や抗体反応を調べる手法は限られている。


 このほど米ハーバード大学医学大学院のスティーブン・エレッジ教授ら国際共同研究グループは、一滴の血液で過去から現在に感染したウイルスが分かる新技術「VirScan(バイルスキャン)」を開発し、6月5日発行の米科学誌「サイエンス」に発表した。



 VirScanは抗ウイルス抗体を高速に分析する手法で、免疫沈殿法とバクテリアファージのDNA配列データベースを参照して、ヒトウイルスのプロテオーム(注1)解析を行う。ハーバード大グループは4大陸から569人を選び、その単鎖抗体(注2)を分析し、抗体と結合する抗原の一部分であるエピトープ(注3)を解析した。



Photo: HHMI News(http://www.hhmi.org/news/your-viral-infection-history-single-drop-blood)

 

 その結果、一人あたり10種のウイルスを検出し解析した結果、抗体反応がウイルスが異なっても(“public epitope”と呼ばれる)抗原エピトープを標的とする(同じような抗体反応を引き起こす)ことを示唆している。VirScanは生体内ウイルス集団と免疫性との関係を割り出す有効な手法になり得る。

 

 VirScanは実際にHIVとC型肝炎については100%の的中率であることがわかっているが、600人分の血液に対してのテストでは的中率は25-30%に下がる。しかし一滴の血液で2-3日で100検体が解析できる高速さは感染症の疑いのある患者を特定し、感染症を閉じ込めるのに有効な手法と期待されている。。

 

(注1)

プロテオーム(解析)は構造と機能を対象としたタンパク質の大規模研究で、タンパク質は生物の生命活動の中心的な役割を果たすため、病気を示すなど生体指標の道具として使える。当面は研究用に限られるが市販されて広範囲に用いることが可能になれば感染症対策に効果を発揮するであろう。

 

日本にもヒト型単鎖抗体ライブラリを用いた抗ペプチド抗体のデータベース化の研究や、抗体集積化チップの開発など単独で研究が行われているが、それらをリンクできたら同様の成果が得られるだろう。

 

(注2

抗体の抗原結合部位を構成する重鎖可変領域と軽鎖可変領域を柔軟なリンカーで結んで作製された抗体。ヒト型単鎖抗体ライブラリを用いた抗ペプチド抗体のデータベース化が進められている。

 

(注3)

抗体は病原微生物や高分子物質などと結合する際、その全体を認識するわけではなく、抗原の比較的小さな一部分のみを認識して結合する。この抗体結合部分が抗原のエピトープで、ある特定抗原の侵入により生成された抗体は,その抗原と同一あるいは類似のエピトープを持つものとしか反応しない。