中国株価暴落と1929年のウォール街大暴落

July 12, 2015

Photo: TECHINASIA


 中国の株価は一年間で150%上昇した後、3週間で35%も下落した。中国政府の株価暴落防止策は一時的に市場に安定をもたらしたが、中国株バブルの崩壊は避けられない状況にあるのではないかと考えられる。株価動向は1929年のウォール街大暴落との類以性がある。

 


株式維持対策

 以下に示すように中国政府当局は株価暴落防止にありとあらゆる強硬策をとった。いずれも市場ルールを無視した何でもありの施策で自由主義諸国では思いつかない「掟破り」の対策だ。


1. 株式を買い支えるため、21の証券会社に420億ドルの資金を提供した。

2. 上場企業の半数の企業の株式売買取引の停止。

3. 10%以上の株価下落銘柄の売買取引の停止

4. 年金基金の株売却の禁止

5. 400億ドルの景気刺激策を新たに発表。

6. 持ち株比率5%以上の大株主の株式売却の禁止を6ヶ月間。

7. 新規株式公開 (IPO) の停止。

8. 中国中央銀国の追加利下げ。

9. 年金基金による株式への投資上限の引き上げ。

10. 信用取引の規制緩和。

11. 「悪質な空売り」に対する捜査、摘発と逮捕。

12. 適格外国機関投資家の投資枠拡大。

13. 中国のマスコミに対して株式投資の推進記事を書くことを命じた。


 これらの対策は、株価の下げ止めにある程度の効果(7月9日に上海総合指数6%、深セン総合指数3%の上昇)をもたらしたが、今後不安定な状況が続くことのは避けられない。株価の下落に歯止めをかけるための中国の手段は、前代未聞で、自由市場の概念に根本的に反するものであると共に、株式バブル崩壊の脅威の深刻さを反映している。


 

 Photo: Vox

 

1929年のウォール街大暴落との類以性

市場介入

 中国株価の下げ止めに市場介入した中国政府に対し、ウオール街の株価暴落を阻止するために市場介入したのはモルガン銀行、チェイス国立銀行、国立シティーバンクなどの当時の大手銀行であった。USスチール、フォード・モーター、スタンダード・オイル・オブ・ニュージャージー、ゼネラル・エレクトリックなど当時の優力企業の株価を買い支えたのである。だが、株価の下落を止めることはできず、ダウ工業指数はピークから89%に暴落したのである。



Photo: Bloomsberg

 

 

個人投資家

 株価上昇の背景には投資知識が低い個人投資家による異常な株買いがある。個人投資家は「買うと上がる、上がるから買う」といったみんなが買うから上がるのは間違いないので買う「群れ精神」に従って行動する傾向がある。国内景気の減速や企業業績の悪化といった実態経済に反して「市場動向の勢い」で株投資を続け、より大きなバブルを作りあげる。

 

 その反面、株価が下降傾向となると「みんなが売るから売る」といった心理が働き、パニック売りに発展することがある。中国では個人投資家は9割を占め、国民の10人に1人が投資家であると言われている。今回の中国株価下落も1929年のウェール街暴落も個人投資家によるパニック売りが背景にある。

 

 

個人投資家と証拠金債務

 多くの個人投資家は資金を借りてまで株買いをして利益を求める。中国の場合も例外ではない。個人投資家による証拠金債務の上昇と共に中国株式の高騰が続いた。証拠金債務 (margin debt) は投資家が株を購入するために金融機関から借りる借金のこと。証拠金債務がピークを迎えた後に株式市場は高価をつけ、その後下落することから、株式市場がバブル状態であるかを示す指標の1つでもある。

 

 米国では1929年、1987年、2000年、2007年と証拠金債務が過去最高になり、株式市場がバブル状態に達し、その後に起きたのが株式の暴落である。ニューヨーク・タイムズ紙の調査によると、米国では証拠金債務がGDP2.25%以上に達した後、株式が暴落したと指摘している。

 

 

証拠金債務高騰の危険性

 1920年代には証拠金債務 (margin debt)は過去最高を迎えていた。およそ90%の株買いはこのような信用取引であったのである。中国の場合6月に証拠金債務が過去最大の3,700億ドル(123%の前年度比増加)に膨らんだ。

 

 証拠金債務が高いほど、株式バブルは大きく、株式暴落規模も大きい。

(例:自己負担10万円、証拠金90万で100万円相当の有価証券を購入した場合。株価が上がり120万円になると、証拠金の90万を返済しても20万の利益がある。株価が下がると、マージン・コールがかかり、証拠金に達する不足分の資金または有価証券を預け入れるように請求される。つまり、株価が下がり70万になると証拠金に達するための不足分の20万円が請求されることとなる。20万円の損失をだすことになる。)

 

 株価が下落すれば、信用取引の顧客はより多くの損失を出さないため株の全てまたは証拠金の不足分の株を売却する。そのため、証拠金債務の規模が大きいほど、株式の下落幅が大きくなる。

 

 1929年のウォール街大暴落は19291024日に起きたが、株価は1932年の7月8日まで下降傾向が続いた。再び暴落前の水準に達するまで25年かかるのである。今回の中国株式下落は証拠金債務が異常なまで拡大したことを反映している。ウオール街大暴落との類似性から今後、さらに下落する余地がある。