欧州の異端児ースイスの特殊性

Jan. 20, 2015







 

 スイスの山岳道路にはひっそりと隠れるようにミニ要塞が要所要所に設置してある。国境を越えて侵入したらいたるところが戦場と化す。地の利を生かしたスイス軍に手痛い反撃を食らうことになるのだ。


 永世中立ということは非武装ではない。スイスの歴史は13世紀から多くの戦争に巻き込まれては、傭兵が鍛錬され軍事力が鍛え抜かれた。小国だがヒットラーをも躊躇させる武装で独立を守り抜いて来た。主権国家としては15世紀に神聖ローマ帝国から独立して、体制を固め1815年のウイーン会議で念願の「永世中立国」が認められた。



独立自主のDNA

 連邦制で憲法は連邦政府に委任すべき事項を規定しているのみで、規定のない事項については州政府が主権を行使する。国民の政治参加に関して、国民発議(イニシアティヴ)と国民投票(レファレンダム)に代表される直接民主制度のもとになるのは市民の高い独立意識であり、国連に加盟する際にも「中立権」を主張したため、当初は認められなかった。


 スイス軍隊は現役こそ4,000名と少ないが、あなどれないのは予備役20万人が控えていることだ。必要なら、予備役が民兵となり有事には強力な軍隊が組織される。軍隊は最悪の事態になればトンネルや橋などのインフラを爆破して「焦土作戦」にでることが決まっている。これらの建造物にはあらかじめ破壊のための爆薬を仕掛ける場所が設定されている。また一見平和な街にも戦車の侵入ができないトーチカが普段は目立たないように設置されている。陸軍は山岳での戦闘に慣れていて機動性に富む。ドイツ陸軍と共通の最新戦車レオパルトを、狭い国土にもかかわらず380両を備えて守りについている。


 冷戦時代は家を建てる際にシェルターを備えることが義務づけられていた。国境を越えたとしても、国民が総動員されて焦土作戦にでればたとえ占領したとしても手痛い打撃を受け、破壊によって戦略的な意味がなくなる。スイスの高地においては山を越える道路が破壊されたら、占領する意味がない。スイスは侵略を企てる国すらないことにはもうひとつの理由がある。



武力に勝る金融兵器

 各国の富裕層や政府機関はスイスのプライベートバンクに隠し口座を持つ。この銀行では口座名義が契約者の任意の番号で管理され、名義人が表示されない匿名口座を開設することが可能なためである。またスイスは一般の銀行業務や保険で世界的に影響力が強く、UBSやクレデイスイスの看板はどの国にいっても繁華街でひときわ目立つ存在である。


 武装と金融の両方で厳重に守られた独立性なのである。最近ではテロ帽子のためにマネーロンダリング撲滅のためマネーロンダリング管理局がつくられ、口座凍結が相次いでいる。それでもマネーロンダリング撲滅への道は遠く、隠し口座の影響力は続いたままである。


 スイスフランの対EU為替レート上限撤廃で話題になっている中央銀行、スイス国立銀行(SNB)は本店が首都ベルンにあり、スイスフラン紙幣の発行と金融政策の実施を行なっている。ベルンは金融中心チューリッヒ、外交中心ジュネーブ、産業中心ローザンヌの中間に位置する人口13万の世界遺産登録の古都である。軍事と金融で守られた独立性は今後も守られるに違いない。