米民主党のグリーンニューディール法案が実行不可能な理由

10.02.2019

Photo: redgreenandblue.org

 

 民主党のアレクサンドリア・オカシオ・コルテス下院議員と上院議員のエド・マーキー上院議員は7日、10年以内に気候変動を逆転させ、すべての米国の炭素排出をゼロにする計画「グリーンニューディール法案」を発表した。既に、共和党だけでなく、産業界、民主党内からも実現不可能な無謀な計画として強い反対が上がっている。

 

グリーンニューディール法案の概要

 10年以内に炭素排出をゼロ、化石燃料から100%再生可能エネルギーに移行することを目指す。実現に当たって14のインフラと大型産業プロジェクトを立ち上げ、経済全てのセクターから温室効果ガスの排出を無くす。

 

 -気候変動による災害にも対応できるインフラを整備 

 -全ての建造物を再生エネルギー対応に建て替え、もしくは改造する

 -全てのエネルギー需要を再生可能エネルギーで供給する(原子力も廃止)

 -スマートグリッド(次世代送電網)を通じて全ての国民に手頃な価格で電気を供給する

 -大規模インフラ投資を行う(コストは約4兆6000億ドルと推定)

 -産業からの温室効果ガスの排出をゼロにする

 -空気中から温室効果ガスを完全に除去する(牛のおならが含まれている)

 -農業から温室効果ガス排出のない持続可能な食料供給システムを構築

 -交通システムの見直しで、電気自動車など炭素排出がゼロの自動車に切り替え、公共交通手段を拡大、全米に高速鉄道を整備、飛行機などによる移動を不必要にする

 -国民全員への医療保険と雇用保険を保証する(仕事をしたくない人にも経済的保証が与えられる)

 

問題点

①化石燃料を廃止するための具体的策や再生可能エネルギーへの転換にかかるコストの計算がない。

②費用の一部の負担は炭素税、国民の負担となる。具体的には収入1000万ドル以上の人への所得税の限界税率を70%に引き上げる。

③主な投資資金は新しく設立するNew Green Bankの中央銀行からの借り入れとなるが、このような中央銀行による直接融資は前例がない。

④再生可能エネルギーへの転換で、新たな雇用1000万人を生み出すとしているが、化石燃料経済に関わる雇用が失われることを考慮していない。

⑤エネルギー産業の改変のスケジュールが示されていない。

 

 再生可能エネルギーへの100%依存には、まだ開発されていない蓄電技術や水素製造技術など新しい技術の開発が前提となっている。そのためには必要な(現在のエネルギー予算を大幅に上回る)技術開発支援予算と大規模な官民プロジェクトが必要になる。地球温暖化対策に10年以内に実現しないといけない根拠が示されていない。 そもそも世界一の債務国である米国が現実に実現できる財政にはない。法案提案者のコルテス自身でさえ、全米の585人の億万長者(10億ドル以上の資産を持つ富裕層)と企業からの投資でも実現できない計画であることを認めている。

 

 2017年の米国のエネルギー消費比率は石油37%、天然ガス29%、石炭14%で化石燃料全体が80%占めている。ドイツでさえ、現在の石炭比率40%を廃止を2038年までに目指しているのに、2030年までに80%の化石燃料火力の廃止は実行不可能な計画である。

 

 化石燃料産業(石油と天然ガス、シェールオイル)のエネルギーブームによって州経済が栄えている州からの反対が予想される。全米のシェールオイル生産ブームによって米国は世界1の産油国、原油輸出国となったばかりで、その経済効果は州税収や雇用の増加をもたらした。エネルギーブームによって充実した州の経済基盤を壊すことになる。無謀な政策を打ち出す背景にはトランプ政権の続投を阻止するために争点をグリーンエネルギーに絞り込みたいという思惑がある。エネルギー比率80%を10年以内で達成するというのは夢でしかない。

 

 

関連記事(この記事の背景をお知りになりたい方は下記の記事もお読みください)

2038年までに石炭火力全廃へ動きだしたドイツ

EUが2030年までの再生可能エネルギー比率目標を設定

低炭素電力の環境負荷~2050未来予測

 

 

 

 ©Copyright 2014 Trendswatcher Project All rights reserved.

このホームページの内容の著作権は、Trendswatcherプロジェクトに帰属します。無断での複製、引用または転載等を禁じます。