2038年までに石炭火力全廃へ動きだしたドイツ

28.01.2019

Photo: Carbon Tracker

 

 ドイツ政府の石炭火力の廃止予定を検討する専門家パネルは、2038年までに石炭燃料を全廃することに合意した。ドイツが2038年までに石炭火力発電全廃に合意したことで、パリ議定書の気候変動目標に向けて努力する欧州各国の政策に大きな影響が予想される。

 

 ドイツは、北西ヨーロッパで唯一石炭依存が高く、化石燃料はドイツの電力の40%近くを供給している。英国も2025年までに石炭燃料を完全に廃止予定だが石炭依存が5%である首相補佐官は、石炭の段階的に廃止ロードマップの合意は困難だとしており、気候変動の立場で歓迎されるとしても実施については紆余曲折が予想される。

 

 国内の石炭火力発電所の運営大手であるRWEは、2038年が「時期尚早」であり、2032年の見直しでの延長を模索している。石炭組合もベルリンで早急な段階的廃止に反対するデモを行った。石炭委員会が合意した336ページの公式文書では、ドイツが2022年までに42.6GWの石炭発電容量を約30GWに削減し、2030年までに約17GWにする。

 

 1,285人を対象としたZDF世論調査によると、ドイツ人のほぼ4分の3が迅速な脱石炭に肯定的である。英国同様、(再生可能エネルギーに加えて)天然ガスがドイツの石炭火力分の損失を埋める選択肢となるとみられる。

 

 メルケル首相は先週ダボスで演説し、電力供給における再生可能エネルギーの割合は現在の38%から2030年には65%まで引き上げる計画である一方で、2022年に石炭火力削減、原子力発電所が完全撤廃されると、天然ガスが必要になると述べた。そこで論争の的になっている問題の1つは、石炭火力発電所を閉鎖するためにエネルギー会社を補償費用で専門家パネルが決めた約400億ユーロは業界の希望(600億ユーロ)と開きがある。

 

 石炭業界に支払う補償費用や再生可能エネルギー補助金で、財政難と家庭の電気料金の負担が増えるが、原子力の選択肢がないドイツでは環境保護の代償を国民が背負うことになる。エネルギー貯蔵と組み合わせた再生可能エネルギーの将来性は高いが、採算性からは天然ガス火力に太刀打ちできない。天然ガス火力で急速な脱石炭を補うという点で、英国とドイツは同じ道を歩むことになる。

 

 石炭火力からの脱却が課題となっている国々にとっては、急速に石炭全廃に向けて動き出したドイツが試金石になる。しかし欧州移民問題ではメルケル政権が勇み足を踏んだことで、欧州が混乱し英国がEU離脱を早め、求心力を弱めることになった。挑戦的な政策にはリスクがともなう。