水素の金属化にはじめて成功

29.01.2017

Photo: newscientist

 

米国ハーバード大の研究グループが超高圧化で金属水素個体を作り出すことにはじめて成功した。金属水素の可能性が1935年に示されて以来、これまで多くの研究グループが超高圧実験に挑戦してきたが、明確な金属化の証拠は得られていなかった。これまで4番目の高圧相(Phase IV)が230GPaで得られることがわかっていたが第5、第6の相は実現していなかった。(注1)

 

(注1)2016年にエジンバラ大研究グループが270GPa以上で第5相を発見、またマックスプランク研究所グループは硫化水素の高圧実験に関連して、360GPa以上で第5の相の存在を主張していた。

ハーバード大研究グループはダイアモンドアンヴィル(注1)で496GPaという地球中心部よりも高い圧力で水素を圧縮し、水素分子をバラバラにして金属水素をつくることに成功した(Science 26 Jan. 2017)。金属化した水素のプラズマ周波数32.5 ± 2.1 eV (T= 5.5 K)はドルーデモデルの電子密度 7.7 ± 1.1 × 1023/cm3に相当し理論計算値とよく一致する。

 

(注1)対向するダイアモンドで圧媒体中に置かれた試料を加圧する高圧発生装置。これまで220GPa程度までが実用的な圧力範囲、388GPaが発生圧力の限界であった。

 

 

 

Credit: Harvard University

 

ダイアモンドの破壊寸前の超高圧の発生が必要になるため、これまでの実験ではダイアモンドが破壊されてしまい成功しなかった。金属水素が準安定相として単離できると予想する研究者もいる。今回の実験では金属化が確認されたが、金属化した後に常温で圧を抜いた時に安定化できるかどうかが今後の課題となる。常温で金属相が実現すれば常温超伝導体に一歩近づくことになる。

 

研究グループは金属水素は常温で安定化できると考えているが、その実証はこれからである。これまで1986年に高温超伝導が発見されて以来、常温超伝導は研究者の夢であった。超伝導転移温度は上昇し最近では硫化水素が高圧化で高い超伝導転移温度を示し、水素化物への関心が集まっていた。

 

 

金属水素はこれまで大阪大学の研究グループを含む多くの研究者が挑戦しながら、決定的な検証はなされていなかった。今後、金属水素が常温で単離できれば常温超伝導体となり1986年から続いてきた高温超伝導の研究の大きな節目となる。常温超伝導体が実用化できれば物理学の世界ばかりでなく、社会に大きなインパクトを与える。