東欧発のバッテリー革命〜ナノ科学で高性能化

24.12.2016

Photo: radio.cz

 

再生エネルギーでは発電される電力の蓄電が課題となりつつある中で、プラハでこれまでのバッテリーのイメージを覆すかのようなバッテリーの高性能化が進められている。ナノ科学を駆使した高性能化が製品化の段階に到達し、東欧発の高性能バッテリーの市販が近い。

 

過去数10年間、再生可能エネルギーによる発電量は増大し続けており、化石燃料火力との競争力が増しているが、その欠点は安定性にありベース電源となり得ないとされてきた。蓄電能力の向上でこうした一般論も過去の話になろうとしている。チェコの首都プラハの北部のレサニーに新型バッテリーの生産ラインが建設され、高性能バッテリー生産が始まる。

 

 

発電した電力を蓄電するバッテリーは大型で重くコストの観点からも実用的でなかった。チェコの発明家Jan Procházkaは2009年に革命的な新型バッテリーを考案し製造会社HE3DAを創設した。彼のアイデアは従来のバッテリー(鉛蓄電池)の構造が垂直なのに対して、リチウムイオン・バッテリーのような多層構造を特徴としている。

 

多層構造としたためバッテリーの電極間距離は短く、表面積は増大し、蓄電性能が向上すると同時にコンパクト化、軽量化、低コスト化ができた。新型バッテリー(3Dナノバッテリー)の当面の用途は太陽エネルギー発電の蓄電であるが、安全性が高い(注1)ためEVのバッテリーにも使うことができる。

 

(注1)サムスンのモバイル機器で爆発火災が多発しているように、設置場所に制限をつけるとリチウムイオン・バッテリーの電極が短絡しやすく発火の危険がある。

 

HE3DAの製造能力は現時点では10MWh/年だが、生産ラインは250MWh/年の能力がある。またHE3DAはバッテリーの販売だけでなく生産ラインのライセンス販売も行っており、スロバキアに同様な工場が建設される他、再生可能エネルギー比率の高いスペイン、ドイツにも工場建設が準備されている。

 

新型バッテリー生産工場は現地の投資家や大口の投資家に加えて新進気鋭の投資家が集まり、建設資金を融資する体制ができている。注目すべき点は中国への販売についても工場を国外に建設するのでなくあくまでチェコ国内で生産する戦略にある。トランプ次期大統領の進める国内生産主義と通じる戦略はこれまでのグローバル戦略へのアンチテーゼであり、もともと愛国精神の旺盛な東欧ならではのものである。

 

チェコは欧州最大のリチウム産出国でもあるため、政府は国内のリチウムを使ったバッテリー製造を国内で行う事に関心がある。政府はこのためにProcházkaのような若いナノテク研究者が新しいバッテリー産業の突破口を開くと期待している。

 

東欧の研究所を訪れるたびに電子顕微鏡やX線構造解析の結晶学の普及が高い事に驚かされる。基礎科学を尊重する社会の基盤も中世から始まる大学の歴史に基づいている印象である。