新しい塩基配列生命体の安定化に成功

26.01.2017

Photo: canauzzie.blogspot

 

遺伝子組み替えによって地球上に存在しない生命体を原理的にはつくることができる。米国の生命科学研究所(注1)が新しい塩基の組み合わせを持つDNAを持つ新種のバクテリアを合成したことを明らかにした。

 

(注1)The Scripps Research Institute(TSRI)、インスリンの発見者が創設した2,500名の研究者を有する先端生命科学研究所。

 

研究グループは単細胞が分裂後に新しいDNA配列を持つことを確認した(Proc. Nat. Acad. Sci.)。今回合成されたバクテリアの直接的な応用は予定されていないが確立した手法を用いて特定機能を有する単細胞を設計することにより薬学へのインパクトは大きいとされる。

 

2014年に大腸菌が新しい塩基(X、Y)配列のDNAを維持することが報告されているが、分裂する過程で新しい塩基配列が失われてしまう。その後もこの塩基配列が失われる問題は解決さず長時間(細胞分裂を維持して)新しいDNA配列を維持できなかった。

 

研究チームは手法の改良に取り組み単細胞生命体が組み替えられたDNAを維持する研究を行った。まず複製するDNAに材料を運ぶヌクレオチド輸送体を最適化してみたが、その結果、バクテリアが衰弱する新たな問題が生じた。そのためこの問題を軽減するヌクレオチド輸送体の変更で、新しい塩基配列を持つバクテリアの長時間飼育に成功した。

 

次にDNA複製中に認識されやすい新しいY塩基配列を最適化したことで、バクテリアの細胞複製能力が向上した。最後に最近の遺伝子組み替えで中心となるCRISPR-Cas9技術を用い、侵入してきたウイルスの遺伝子を複製して自分のDNAに取り込み敵として認識させる免疫機能を持たせた。

これによってX、Y塩基配列を有しない生命体を敵とみなして攻撃する性質(免疫性)をもたせることができた。60回分裂後にも最初のX、Y塩基配列を保持していることが確認された。

 

次のステップは新しい遺伝子配列をRNAに転写する技術の開発である。RNAは遺伝子配列に基づいて蛋白質を合成する。研究所はNIHの潤沢な資金により新しい遺伝子配列のバクテリア合成に成功した。遺伝子組み換え技術は新しい生命体の合成にまでこぎつけた。