抗生物質が無力な細菌を生み出すMCR-1

04.12.2015

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すべての抗生物質に対して免疫性のある細菌が中国で発見された。研究チームによると最悪の場合、この細菌により抗生物質による治療法の確立されていない時代に逆戻りする危険性があるという。


細菌をポリミキシン系抗生物質を無力化する遺伝子を発見した研究結果が英国の医学誌、”The Lancet”に掲載された。研究チームはプラスミド(注1)と呼ばれるDNAが細菌から細菌へ細胞内においてゲノム上の位置を転移して遺伝子情報を伝えることができるDNAをみいだした。


(注1)細胞内で複製され、娘細胞に分配される染色体以外のDNA分子の総称。細菌や酵母の細胞質内に存在し、染色体のDNAとは独立して自律的に複製を行う。 


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これまで遺伝子組み換えによってできた抗生物質が効かない細菌は、細菌が増殖することで複製されるが獲得した免疫性が転移することはなかった。今回の発見は肺炎菌と尿路感染症菌の間で抗生物質免疫性が伝達されることを示している。

 

バーミンガム大学のPiddock教授は家畜の飼育に使われる(ポリミシン系)抗生物質の使用を規制するべきだと警告している。また深刻な問題は発見された抗生物質に対する免疫性(MCR-1)は細菌間で容易に転移することにあるとしている。


 

現在のところMCR-1は中国内に閉じ込められているが世界的に拡散する恐れがある。実際にラオス、マレーシアに拡散した可能性が高い。中国産の鳥肉、豚肉が媒体となるリスクが高いが、中国からラオスへの食肉輸入は多く、すべて検査することはできない。

 

ラオス国民の習慣として生肉や加熱が不十分な肉を食べる習慣によってMCR-1の拡散が脅威となりつつある。研究者はMCR-1の拡散はプラスミドによって起こるという。細菌間で抗生物質の免疫性が伝達されればやがて多くの細菌が抗生物質を無力化する能力を獲得する。


 

細菌の遺伝子変異はその細菌が複製されることによって伝達されるがMCR-1はそうでなく細菌同士で情報伝達が行われる点が特徴である。問題を深刻化している背景には中国の家畜飼育に年間12,000トンに及ぶ抗生物質が使用されていることである。(下の図は中国の抗生物質分布)

 

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2011年から2014年の期間、広東市の30箇所の市場と27箇所のスーパーで豚肉と鶏肉を採取したところ大腸菌の多くにMCR-1が確認された。また入院患者1,322名の16例で大腸菌、肺炎菌にMCR-1遺伝子がみつかった。

 

MRC-1によって現代医学が築いた抗生物質治療も崩壊し抗生物質発見以前の暗黒の時代に逆戻りする恐れがあるとWHO警告している