脱炭素社会への切り札となるCO2還元触媒

17.01.2018

Credit: NASA

 

国際的な排出量規制が成功したフロン(注1)だが、CO2の排出量規制ではパリ議定書の定める今世紀中に排出量ゼロという非現実的な実行計画は、EUの化石燃料販売規制という大胆な政治決断をもたらした。上のイメージはNASAが作成した大気中のCO2の流れの3Dシミュレーション。

 

(注1)フロンがオゾン層の破壊の要因となるためフロン使用の禁止が合意され実行に移された結果、濃度が減少してオゾンホールが塞がった。オゾン危機を救ったフロン規制が成功した理由は二つあり、ひとつはオゾン破壊メカニズムが科学的に確立していたことと代用物質があったこと。

 

しかし表向きには2019年からとなる脱炭素化政策を掲げても中国と米国の2大排出国が化石燃料の使用を全面的に禁止することはできないから、パリ議定書の掲げる排出量規制という消極的なアプローチは現実的ではない。

 

CO2を還元してカーボンニュートラル燃料や高分子製造材料を製造する技術が普及すれば、化石燃料を使用せずに済む。また貯蔵できるエネルギーを空気から製造することで同時にエネルギー危機も防げる理想的な未来技術になり得る。実際このテーマは米中2国は積極的な研究投資を行っている。トロント大学の研究チームはCO2を還元してポリエチレンの原料となるエチレンに変換する触媒開発に成功した(Luna et al., Nature Catlyst online Jan. 15, 2018)。

 

CO2の還元で得られる炭素を使ってエチレンを製造するためには触媒と電気化学反応を用いる。金、白金、亜鉛などの金属がCOまでの還元反応触媒となるが、エチレンを製造するにはそれ以上の還元が必要で、そのためには銅のみが触媒となる。しかし通常はエチレン以外にメタンやエタノールも同時に生成されるためエチレンへの選択性が鍵となる。

 

研究チームは軟X線分光で触媒のモルフォロジーと形状を実時間観察して、DFT計算を組み合わせて機能を最適化しエチレンの選択性を向上させた。エチレン生成の選択性はメタン比で200を記録した(下図aの青色の径路)。