悪性脳腫瘍の成長阻害メカニズムの発見

03.10.2017

Photo: cancerresearch

 

MITの生物学研究グループが悪性脳腫瘍として知られる膠芽腫(glioblastomas)のメカニズムを解明し、そのメカニズムを阻害する治療法を見出した(Braun et al., Cancer Cell online Sep. 28, 2017)。研究グループはさらに遺伝子マーカーも発見し、予防に役立てることも可能になったとしている。

 

治療が難しい癌ー膠芽腫

膠芽腫は通常、放射線治療や化学療法で治療されてきたが、これらは対処療法で延命はできても治癒するものではなかった。脳腫瘍には分子標的がほとんどないためである。このため抜本的な治療法が求められてきた。研究で注目した鍵となる蛋白質阻害剤はあったが、これらの阻害剤は血液から脳細胞に移動できないため、治療効果が低かった。

 

研究グループは膠芽腫に関わる遺伝子スクリーニングとして知られるshRNAに着目した。短鎖RNAでスクリーニングを試みた結果、PRMT5と呼ばれる蛋白質が阻害されると腫瘍の成長が停止することがわかった。このことから研究グループはPRMT5が遺伝子スプライシング(注1)を介して、腫瘍の成長を促すメカニズムを考えた。PRMT5が不足すると拘束されたイントロンを除去できなくなり、生命サイクルに影響を与えアポトーシスしない細胞(癌細胞)を生み出す。

 

(注1)遺伝子スプライシングはメッセンジャーRNA(mRNA)が必要な遺伝子の一部を切り出すプロセス。DNAから転写したmRNAにはアミノ酸配列の遺伝情報を持たないイントロン(介在配列)が存在する。遺伝子が翻訳されて蛋白質が細胞内で正常に機能するには余分なイントロンを取り除き、必要な部分を遺伝子スプライシングでつなぎ合わせる必要がある。スプライシング阻害物質が癌細胞の成長を抑制する癌治療や抗癌剤の研究が注目を集めている。

 

 

Credit: Nature Comm. 

 

鍵となるPRMT5

脳腫瘍ではPRMT5が増えてmRNAのスプライシングが助長され腫瘍細胞が増殖する。PRMT5が阻害されると細胞分裂が停止する。PRMT5阻害剤で腫瘍成長を止めることができるが、脳細胞に阻害剤を輸送できれば脳腫瘍の成長を抑えることが可能になると期待されている。

 

PRMT5阻害剤は選択的に腫瘍細胞に作用するため化学療法と異なり副作用の心配がない。また遺伝子スプライシングが阻害されると腫瘍成長が停止するメカニズムは他の癌細胞成長メカニズムにも共通するとすれば、PRMT5阻害剤が他の癌治療にも有用である可能性もある。

 

癌治療最先端のスプライシング阻害剤

この研究は癌研究と治療薬の開発には分子生物学的なメカニズムを特定し、その阻害剤を開発することが本質的であることを実証したと言える。