コンパクトなトカマク方式で核融合が可能に

02.08.2016

Credit: CCFE

 

原子炉の老朽化にも関わらず新規建設が進まないため世代交代が困難になりつつある核分裂による原子力利用は進展が遅い。さらに廃炉やバックエンドと呼ばれる使用済み核燃料の再処理と最終処分をめぐって解決策が示されないままである。化石燃料の枯渇と倍増する需要の救世主となるはずであった原子力を新エネルギーとする政策に黄信号がともった。

 

またCO2を増やさないカーボンニュートトラルで環境に優しいとされてきた再生可能エネルギーのひとつ、バイオ燃料、が実は化石燃料よりCO2排出量が大きいことがわかると、核融合の利用研究が加速されることとなった。核融合にはいくつかの異なるアプローチがある。そのなかでも国際熱核融合実験炉ITERで、採用されている磁場閉じ込めのトカマク方式はドーナッツ型の容器の中に強力な磁場で高温プラズマを閉じ込める。

 

 

ITERはフランスに建設が進められており、発生エネルギーが入力エネルギー(電力)の10倍を超え、発生した高温プラズマが維持できることを目標にしているが、装置が巨大で複雑であると同時に熱出力を発電に変換する発電システムとして設計されているわけではない。発電システムの研究開発は日本のJT60で進められている。またトカマクと競合する磁場閉じ込め型のヘリカル型や、大出力レーザーを用いた慣性閉じ込め方式の研究開発も世界各国で行われている。

 

例えばドイツのW7-Xは2014年に完成したステラレータ型核融合炉で、世界最大のステラレータ型プラズマ閉じ込め装置である。トカマク方式はプラズマ温度を高くできるが外壁とプラズマの相互作用が様々な問題(例えば磁石のクエンチ時の挙動)を引き起こす。ステラレータ型はプラズマが外壁と接しないためトカマク特有の(安全性に関わる)問題が解決される点で有利である。

 

 

最近ではプラズマ閉じ込めによる核融合炉の実用化にはITERのような巨大なトカマク炉は必ずしも必要でないことが明らかになっている。最新の研究によれば磁場閉じ込め装置のスケールと出力には関係がないとされる。これはこれまでプラズマ閉じ込めの効率は容器が大型になるほど増大すると考える従来の開発方針が覆される結論である。

 

トカマク方式はこれまで最も多く研究され、高温プラズマ核融合の実現に向けた最先端にあると考えられていた。トカマク方式では、高温水素プラズマをドーナッツ状の閉じ込め容器中を周回させ、磁場による圧縮とこの周回する運動エネルギーで核同士を衝突させ融合してヘリウムとなるときに放出されるエネルギーを熱出力として取り出す。

 

問題となるのは高温プラズマをつくり加熱する最に莫大なエネルギーが必要となることで、そのため発生するエネルギーより入力エネルギーが上回るということであった。

 

 

超伝導磁石を用いることで必要なエネルギーを減らせられるが、それでもプラズマ容積は大きい必要があると考えられていた。ITERのような巨大な施設(世界最大のトカマク)が計画されたのはそのためである。今回の研究によればトカマクの高温プラズマ閉じ込め容器をドーナッツでなく球状(注1)にすると、入出力比はサイズによらないことをみいだした。

 

(注1)厳密にはドーナッツの中心を極限にまで縮小したことにより見かけ状は球状にみえるためSpherical Tokamakと呼ばれる。

 

つまりコンパクトなトカマクでも核融合条件をつくることが可能で、高温超伝導マグネットと中性子吸収材の最適化で10年以内に実用発電が可能とされる。今回の論文発表はコンパクトな100MWクラスの核融合発電システムをつくれる指針を示したものとして、世界中の核融合研究者の注目を浴びることとなった。核融合における”Bigger the better”の終焉が近いのかもしれない。