IS敗北で戦争終結を喜べないイスラエル

26.08.2016

Photo: whatsupic

 

2016年6月26日、イラク軍はISが2014年春から占拠していたイラク中部のファルージャを奪還した(イラク国営テレビ)。ファルージャ奪還の後はIS最大の拠点であるモスル奪還を目指す。

 

またシリア国内でもクルド人武装勢力が中心となるシリア民主軍が8月12日、トルコからのIS補給拠点、マンビジュを制圧した。マンビジュはトルコ経由ISの物資補給拠点となっており、司令部のあるラッカから140kmの国境近くに位置する。ISは2014年に制圧しこれまで物資や戦闘員の補給拠点としていた。

 

マンビジュが奪還されれば、イラク国内ではモスル、シリア国内ではラッカ奪還を目指して有志連合は空爆を強化し、地上戦に拍車がかかる。ISの拠点が徐々に失われていくことで、対IS戦争終結の兆しが見えてきた中で、「IS敗北は素直に喜べない」というイスラエル諜報機関の長官の見解が物議をかもしている。

 

 

イスラエルの複雑な心境

イスラエル諜報機関の長官ヘリチ・ハルヴェイ少将は侵略を続けてきたISにとって、上記のように過去3カ月は最も過酷であった、としながらもイスラエルは「このままISが敗北して戦争が終結することを望まない」と述べた(イスラエルNRG)。

 

IS敗北によって(代理戦争を行ってきた)超大国が地域から撤退すれば、イスラエルだけがヒズボラやイランと対峙することになり、イスラエルが孤立化する。そのような結果にならないため諜報機関(モサド)はこれまで努力してきたし、これからも努力する、というメッセージには地域の紛争の矢面に立ちたくないイスラエルの本音が込められている。

 

 

代理戦争の申し子IS

イスラエル諜報機関の正式名称はイスラエル諜報特務庁、いわゆる「モサド」である。対外諜報活動と暗殺を含む特務工作を行う首相直属の機関であるがその規定は法律には記されていない。つまりイスラエルの国益のためならどのような対外活動をしても、取り締まりの対象とならない。

 

 

モサドは米国CIAと連携して活動することも多い。イスラエル高官が「2012年のシリア危機のときにモサドがダーイッシュと呼ぶテロ組織(IS)をつくってシリア政府軍と戦わせた」ことを認め、オバマ大統領も米国もISの誕生に関わっていたことを認めた。つまり米国とイスラエルが作り出した反アサド政権の戦士たちが度を越して自立したのがISの起源である。イスラエルがIS敗北を喜べない理由はここにある。