EU離脱が英国の研究開発に与える影響

14.09.2016

Photo: CNN Money

 

ホーキング博士が英国のEU離脱でEUからの還付金がなくなれば、英国の科学予算が大打撃を受けると主張している。EUは加入国に相当な額の拠出金を課しているがEUから参加国への助成金で還元される部分もある。英国の研究開発予算に絞りEUへの拠出と還元の関係を検証してみる。

 

英国王立協会による2007-2013年度(EUFramework Programme 7FP7))の研究開発予算777億ポンドの中で英国の拠出金は54億ポンド(EU全体の10.5%)である。これに対する研究開発還付金総額は475億ポンドの中で英国への還付金総額は88億ポンド(参加国別で6%)となる。(注1

 

(注1)英国はEUの研究予算を個別の研究者が獲得する割合が高い。個別の研究ひ獲得総額(54億ポンド)を還付金に加算するとEUから英国への研究資金援助総額が88億ポンドとなる。

 

 

Graph: The Royal Society

 

英国への研究開発費の還付の大部分はEUFP7の一環として、契約した個別の研究者に渡される(下図)。FP7からの予算69億ポンドの中でEUが管理する部分が大半で、英国が使い道を決定できる構造基金(Structural Fund)は19億ポンド(22%)しかない。言い換えると研究者はEUと直接契約して予算を獲得するので英国が直接関与できる財布は22%しかないのである。

 

 

Graph: The Royal Society

 

このことは英国の研究予算は大半がEUとの契約ができた英国の研究者に選択的に支給されることを意味している。EUとの契約ができなかった研究者は優れた研究提案であっても予算がつかない、もしくは制限される。拠出金をEUに収めてもその還付金が「ひも付」(注2)でしか戻らず、研究開発における自由な裁量権が奪われるとしたら、ホーキング博士の主張するEU離脱によるデメリットも根拠が薄くなる。

 

EUは供出金をプールし特定地域(新規参加国)への含む大型研究インフラで産業活性化を目指すが、利権の絡む大型工事を含むことが多い。例えば2012年に世界最大の出力を持つ大型レーザー施設ELIはルーマニアに建設が決まっている。CERNやELIでの先端的研究施設を使った研究の遂行にはEUと個別に契約して施設を使う必要がある。素粒子実験など特殊な分野に限られていた大型研究インフラ(Large-scale Research Infrastructure: LSRI)への集中投資で多分野にも集中研究が普及することになる。結果的に、国という単位での研究活動が意味を持たなくなる

 

(注2)代表的なFP7のマリー・キューリー基金への応募は書類作成上の「コツ」があり技術的な障壁が高い。実際、申請にはスキルを持った秘書の指示に従わないと審査が通らない。EU拠出金でポスドク雇用のセーフテイネットが出来ているが、その陰で逆に自国の雇用が脅かされている。

 

 

 EU離脱によって数字の上では英国の受け取る還付金は減少することになるとしたホーキング博士の主張は正しくない。還付金がEUと研究者との直接契約で国籍が参加国でなくなるため、一時的に還付金が受けられなくなるとしても、拠出金を自由に研究課題に配布する裁量権が得られたことのメリットの方が重要だからである。