進展する遺伝子治療〜遺伝子疾患に光

08.06.2017

Photo: scmp.com

 

クイーンズ大学の研究グループは遺伝子編集による遺伝子疾患治療法の検証に成功した。難病とされる肝臓疾患など遺伝子変異で発症する疾患の治療に役立てることができるとしている(Nature Scientific Reports 7:2585 (2017))。

 

研究グループはCRISP-Cas9と呼ばれるゲノム編集技術を用いて、マクロファージ中のNO活性を低下させるアルギナーゼ1と呼ばれる酵素の欠損の遺伝子治療の検証を確認した。CRISP-Cas9は画期的なゲノム編集技術として注目されており、幹細胞と組み合わせることによりアルギナーゼ1酵素欠損を抜本的に治癒することに成功した。

 

アルギナーゼ1は肝臓で尿素回路の酵素のひとつでアルギニン(アンモニア)を尿素に変換する反応に関わっている。アルギナーゼ1の遺伝子欠陥を持つ患者は毒素であるアンモニアを変換できなくなり、血液中のアルギニン濃度が高まって成長不良や脳機能や神経の異常をきたす。

 

 

Credit: journal.frontiersin

 

他の多くの遺伝的疾患同様にアルギナーゼ1異常は原因遺伝子が常染色体に存在する常染色体劣性で3歳まで症状がない。これまで症状がでるまで治療ができなかったアルギナーゼ1異常をゲノム編集によって、発症する前に治療できる可能性がある

 

研究グループはヒトの細胞モデルの遺伝子を編集してアルギニン分解の異常を確認し、もとに(正常に)戻すことで、アンモニア分解が正常に戻ることを確認した。細胞モデルについて成功した遺伝子治療だが実際に人間への適用となるとまだ時間がかかりそうだ。現在の治療範囲がアンモニアなど窒素除去やプロテイン・ダイエットなどの薬剤投与機能の域をにあるが、今回の検証で一般的な遺伝子治療が本格化すると期待される。

 

CRISP-Cas9については最近の研究で、編集箇所以外に意図しない変異が起きるとして警鐘を鳴らす論文が発表されている。さらなるゲノム編集技術の検証と改良が必要だが、今回の研究は本格的な遺伝子治療への指針となるだろう。