未来都市のつくりかた~JingJinJiとマスダール

17.06.2017

Photo: weforum.org

 

2015年以降、減速しつつある中国のGDPを押し上げたのは、都市部の建設工事であった。中国政府は北京メガシテイ構想に周辺の2都市を加え世界最大のメガシテイを目指した。いわゆるJingJinJi(Beijing、Tianjin、Hebeiの3都市)計画である。

 

中国の5カ年計画で最大規模の建設事業となるJingJinJi計画は都市部の人口が1億人を超える。これは周辺地域から都市部への人口移動においても過去最大クラスのものとなる。最近の科学アカデミーの調査研究(Science China Earth Sciences 60 6 1083 (2017))によると都市化と環境保全に相関があることがわかった。

 

Credit: nextbigfuture

 

都市化による社会成長とそれを支える周辺地域とは相関が強く様々な因子が複雑に絡み合っている。都市化が進むと人口が密集し、次第に物資や食料が成長を支えきれなくなるために、周辺地域への依存度が高まる。

 

この研究は1980年から2014年の期間の都市化と周辺地域の関係性を都市構造分析で解析したものである。研究によれば都市化によって都市周辺の直接的な変化以外に、遠距離地域にも影響が及び都市内部の問題より深刻化する。

 

困難な成長の持続

周辺から都市に労働者や農民を集め、都市化が進むとその周辺地域の環境への負荷が増大すると、都市化の活力を阻害される。すなわち都市化への過程で周辺地域が経済疲弊を起こし、成長率が低下するので、都市化の恩恵としての経済発展に持続性を求めることができないことになる。

 

JingJinJi地区が発展を継続するには北京から非首都機能を分散させ、環境保全に取り組むと同時に経済活動の効率化と調和をはかる必要性を指摘している。

 

中東の未来都市マスダール

未来型都市といえば中東のマスダールや金融都市構想、KAECが知られている。これらの都市構想では環境保全と再生可能エネルギーに最初から留意して設計が進められている。人口集積度からはJingjinjiと比較にならないが、都市化の問題点に最初から取り組む姿勢では一歩進んでいる。例えば電力供給は40-60MWクラスのメガソーラーを中心に130MWを太陽エネルギーで生み出す。マスダールでは生ゴミは有機肥料として栽培に利用され、焼却炉の排熱は発電に利用する。

 

加えて産業廃棄物はリサイクルにより廃棄物ゼロの世界初の都市となる。中東諸国はエネルギーを石油に依存すれば、輸出量が減り原油市場での競争力が低下する。そこで科学技術開発に取り組み再生可能エネルギーを使い、原油に依存しないクリーンエネルギー都市を建設する政策を立てている。

 

中国が考えた農村を潰して工場化し農民を都会に集める手法では、都市部の経済活動を支える負荷が周辺に局在し、それがやがては都市経済を圧迫する。マスダール式の環境保全型都市構想に学ぶべきところが大きい。しかし減速する一方のGDPを支えるには都市化の建設工事をやめるわけには行かない。中国政府も一部の建設事業を中止するなど、手を打ちつつあるが焼け石に水状態である。

 

日本の未来都市構想

日本では2016年1月の閣議決定、第5期科学技術基本計画で、日本の目指すべき社会として「超スマート社会(Society5.0)が提起された。Society5.0はドイツが提唱するIoTによる産業力強化政策(Industry4.0)を意識し、かつ(柏市に代表される)「スマートシテイ」をヒントにして、産業、商業、流通など社会生活を含めた「社会のスマート化」によって、日本を再生、国際競争力を高めようとするものである。

 

要するにIT・AIの支援で「インテリジェント社会」をつくれば無駄がなくなり、高齢化する日本を再生できる、という構想だが、社会構造のインテリジェント化だけでは都市部の成長は見込めない。結局都市部と周辺地区の経済格差が成長を阻害する点ではこの研究結果は参考にすべきかもしれない。