実用化に近づいた空気中のCO2で燃料を製造する技術

Photo credit: Berkley Laboratory

 

欧州を中心にEV化へのシフトが活発化している。しかし目安とされる2040年までに世界のICE(内燃機関)の車3億台をEVに置き換えることは非現実的であると同時に、EV化で電力不足に陥ることになる。一方で空気中のCO2から太陽エネルギーで燃料アルコールを製造する技術が実用化すると、既存の車と給油インフラがそのまま使える。また地球上のカーボンサイクルに影響を与えない。

 

そのためエネルギー変換効率は低いが、水と空気中のCO2を酸素と生体エネルギー源(糖)に変換する植物の光合成に習って、太陽エネルギーで水分解やアルコールを製造する研究開発が加速している。前者はFCV(燃料電池車)の燃料、後者はICE車のカーボンニュートラル燃料とすることができる。夢の技術で実用化が程遠いと思われていたこれらの研究はナノ科学の急速な発展で、進展を加速させ実用化へ近づいている。

 

バークレイ研究所の研究グループは光合成より遥かに高いエネルギー変換効率で空気中の炭素(CO2から)を燃料(エチレン、エタノール)に転換する技術を開発した(Gurudayal et al., Energy & Environmental Science 2017)。これまでの技術では完全なCO2還元には至らなかった(注1)が、この研究で初めてCO2からエタノールとエチレンを生成することができるようになった。

 

(注1)CO2からCOあるいはCOと水素の混合ガス(シンガス)が生成される。

 

研究グループは太陽光エネルギーによる電気化学反応(オーバーポテンシャル)とナノ触媒表面の最適化で、高効率で還元反応を進めることに成功した。これによって空気中の炭素を固定して、燃料を製造する先進技術の実用化に近づいた。ICE車がカーボンニュートラル燃料で走るようになれば、インフラ整備や電力不足などのEV化に伴う様々な弊害がなくなる。

 

米国はシェールガス・オイルの生産を増やすとともに化石燃料自身のカーボンニュートラル化を狙い、エネルギー省が2010年から「エネルギー改革ハブ」構想のもとでバークレイ研究所などの国立研究所を総動員して、空気中の炭素固定によるカーボンニュートラル燃料製造技術の開発に予算を投じてきた。

 

CO2還元による燃料製造は光合成の他方の反応(水分解)と並んで人口光合成に含めることができる。低電圧(低オーバーポテンシャル)でも反応が進行する触媒(トップのSEM像)によって太陽光照射のピーク以外の長時間反応が可能でピーク時のエネルギー変換効率は5%に達する。

 

上のSEM像でピンク、緑色の部分はCu、Ag金属ナノ構造体である。新型触媒の特徴はオーバーポテンシャルが低く中性の水溶液で触媒作用を発揮することで、実用化には不可欠の条件が揃ったと言える。

 

Credit:  Berkley Laboratory

 

人工光合成や光触媒の研究で日本は先行したが、産官体制での開発体制は時間的制約があり実用化は遠い段階にあった。シェールガス・オイル、原子力と利益相反となるかに見えるカーボン燃料製造技術開発に予算を投入する米国の狙いはエネルギー源の多様化でリスク分散するとともに、新エネルギー源のキーテクノロジーでエネルギー危機を迎える発展途上国への影響力を強めることにある。またこれまで重要視されてきたバイオエタノールなどバイオマス燃料が製造過程を含めるとカーボンニュートラルとは言えず、環境保全面での問題で批判が相次いで失速(注2)したことと無関係ではない。

 

(注2)バイオエタノールの元祖とも言える米国ではすでに再生可能エネルギーとして不適との判断がなされている。日本は未だにバイオマスの研究開発に予算をつけている。

 

関連記事

EVだけに未来を託せない理由

EV化で電力不足が深刻に~2040年までに原発10基分

 

 

©Copyright 2014 Trendswatcher Project All rights reserved.
このホームページの内容の著作権は、Trendswatcherプロジェクトに帰属します。無断での複製、引用または転載等を禁じます。