テスラEVのターニングポイントとなるモデル3

02.08.2017

Credit: Trevor Smith

 

7月28日にテスラEVの量産車モデル3は最初の30台が引き渡された。オーナーとなるのはテスラ社の社員である。8月は100台、9月に1,500台が生産され2018年度は50,000台が製造される。モデル3は航続距離が標準で322km高級モデルS(航続距離498km)の半分の価格となる。手頃な価格帯(基本車両価格はモデルSの1/2)でありながら航続距離と運動性能ではモデルS譲りとあって、モデル3は世界中で500,000台のバックオーダーを抱える。

 

大衆EVメーカーを目指すテスラ社

モデル3の販売でテスラEVは量産自動車メーカーの仲間入りを果たす。量産メーカーとなることでテスラ社はニッチ路線と決別するがそれは同時に大手自動車メーカー共通の価格競争と薄利多売の土俵に立つことでもある。はっきりしていることは同社にとって、モデル3がターニングポイントになることだが、その後の成長については期待と同時に不安要素を抱えている。

 

テスラ社が予約金を支払って注文した500,000人の信頼を裏切らないためには、遅れなく(2018年度中に)車を引き渡し、不良箇所があれば迅速に対応するサービス体制を整える必要がある。これはこれまでニッチ路線を展開してきたテスラ社には未経験の事業となる。また販売促進の原動力であったEV補助金(7,500ドル~約83万円)はEVメーカーが200,000台販売した時点で、打ち切られる。すでにテスラ社はすでに126,000台のEVを販売しているので、モデル3の購入者で補助金を受けられるのは1/5以下になる。

 

テスラEVには車作りの経験の少なさから細かい不具合が多い。高級なモデルS、Xの購入者の多くはテスラ社やイーロン・マスクに共感するテスラ・フリークなので、多少の不具合には目を瞑るが、量産車モデル3のオーナー達はそうはいかない。多くの大手メーカー同様のサービス体制が求められるが、テスラ社がそれに答えられなければ信頼は失墜する。

 

重荷となる月間生産ノルマ

2010年から赤字でなかったのはわずか2四半期だったテスラ社にとって、定常的に利益を出せるかのは2018年度までに500,000万台を生産できるかどうかにかかっている。テスラ社がバックオーダーを解消するには月産50,000台に近い生産台数をキープする必要がある。この数字が困難なことはイーロン・マスクも認めている。ちなみにプリウスの年間生産台数である33万台はトヨタの2工場がフル稼働して達成できる生産台数である。

 

モデル3の製造のネックとなるのはLiイオンバッテリー供給体制である。ネヴァダ州にパナソニックと共同出資で建設されたギガファクトリー(注1)のバッテリー供給量に狂いが生じれば直接、生産計画に響く。

 

(注1)ギガファクトリー1。後続のギガファクトリー2は上海市に建設が決まった。イーロン・マスクはEV生産のネックがLiイオンバッテリーにあるとして生産能力に余裕を持たせ、余ったバッテリーは家庭用・業務用蓄電システムに当てる。風力・太陽光などの再生可能エネルギーの(時間的変動がない)ベース電源とするグリーン・エネルギーの将来性を見込んでの戦略で、ギガファクトリーを世界に10-20箇所建設するとしている。

 

モデル3の生産性と利益率の低さに懐疑的な見方が出たため、テスラ社株価はピーク時から15%落ち込んだ。モデル3の生産ノルマはテスラ社の試練となるが、それを超えられれば、SUVなど売れ筋のEVを開発してラインアップに加えて成長企業になれるが、そうでなければ信頼は失墜する。期待に答えられればステップアップへの道が開かれる。何れにしてもモデル3の2018年のバックオーダー解消がテスラ社の運命を握っている。

 

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