米軍事シンクタンク、ストラトフォーの米国対北戦力分析

30.04.2017

Photo: aljazeera

 

 米テキサス州の民間軍事シンクタンク、ストラトフォーが米国の対北朝鮮攻撃に使用できる兵力を分析してインターネット上に公開している。それによると米国が行使する軍事力は限定された目標に対する隠密作戦に限られ、基本的にはステルス航空機の空爆と潜水艦及び護衛艦から発射される巡行ミサイルが中心となる。作戦のシナリオは作成されており、旧作戦情報の漏えいによって一部が手直しされているものの基本的なスタンスの奇襲・同時限定攻撃戦略に変化はない。

 

 北朝鮮の防空体制は強化されているが兵装は旧式でB-2爆撃機とF-22戦術戦闘機のステルス攻撃の探知及び迎撃能力は低い。米国が動員できるB-2爆撃機は10機で長距離ステルス爆撃が可能だが、F-22戦闘機の航続距離は短く作戦前に周辺基地(日本・韓国内米軍基地)に展開しておく必要があるので、事前に北朝鮮に攻撃を察知される可能性が高い。

 

 展開可能なF-22は24機。F-22が搭載できる兵器は450kg GBU-32JDAM(精密誘導爆弾)2。通常兵装はより小型爆弾であるが北朝鮮攻撃には大型JDAMが実装される。B-2には16個の900kg GBU-31JDAMもしくは2個の13,600kg GBU-57バンカーバスターが装填される。

 

 ステルス爆撃に続いて海軍がBGM-109トマホーク巡行ミサイル攻撃を行う。米海軍は巡行ミサイルに換装された4隻のオハイオ級原子力潜水艦のうち2隻を展開、これらの巡航ミサイルは300発となる。護衛艦の巡航ミサイルを合わせて600発の攻撃力を備える。

 

 B-2爆撃で使われる10発のバンカーバスターと80発の900kg JDAMで核施設と核兵器貯蔵施設は大打撃を受け使用不能とするのに十分で、北朝鮮のH-5爆撃機による報復核攻撃能力を奪うことも攻撃目標となっている。このほか原子力空母カールビンソンの攻撃主力は45機のFA-18戦闘攻撃機の爆撃と護衛艦からの巡行ミサイル攻撃が加わる。先制攻撃の対象となる核施設を含む北朝鮮の軍事目標は以下の図に示した。これらは攻撃されにくいように全土に分散されている。

 

 

Credit: theguardian

 

攻撃が難しい移動式ミサイル

 しかし困難なのは北朝鮮内に分散配備されている200台に及ぶ移動式のランチャーに搭載されている様々なミサイル群である。位置情報がないことが攻撃を難しくしている。

 

 また核兵器能力の詳細な情報が得られていないが米国の安全保障科学研究所の推測では13基から最大で30基の核兵器を開発済みで、そのうち数発は中距離弾道ミサイルに搭載可能としているが、あくまで推測にすぎない。しかし空爆の可能性は米軍の攻撃で閉ざされるとした場合、厄介なのは中距離弾道ミサイルに搭載された数発の核弾頭になる。爆撃と巡行ミサイル攻撃でこれらの攻撃能力を奪えなければ、核報復で取り返しのつかない被害がでる。

 

 北朝鮮の報復攻撃兵器の大部分が爆撃と巡航ミサイルで破壊されても、国境付近に配備したロケット弾と200門以上の長距離砲の脅威は残る。攻撃が始まれば臨戦態勢にあるロケット砲、長距離砲やスカッドなどの近距離ミサイルで韓国内には相当の被害が出る。PAC3や配備直後のTHAADでの迎撃でも配備されている600基のスカッドから守りきれない。また200基のノドンで米軍基地の被害も大きい。さらにミサイルの近代化が精力的に行われており、新型の移動式中距離弾道ミサイルの開発が継続され、潜水艦発射の中距離弾道ミサイルも配備されたとする情報もある。

 

 したがって爆撃と巡行ミサイルの大々的な先制攻撃で核施設の破壊と攻撃力の大部分を奪えるとしても、(正確な情報がない限り)近距離兵器と中距離弾道ミサイル攻撃から防ぐことはできない。これが抑止力として働いているのが現状だが、先制攻撃の精度が十分と判断されたなら先制攻撃の可能性は否定できない。ただし核兵器の運用は簡単ではなく完成しても万全な保守が必要で、物資に制限のある北朝鮮の核兵器が全て稼動状態にあるとは限らない。そのためサイバー攻撃と情報戦の重要度が高くなっている。

 

 まとめると米軍先制攻撃はステルス空爆と巡行ミサイル攻撃が中心となる。主要な北朝鮮の攻撃目標はこれにより大打撃を受ける。国境付近の近距離兵器と弾道ミサイルの脅威を取り除けない。しかし核兵器による空爆の可能性は取り除くことができる。