サウジアラビア次期国王に指名されたサルマーン皇太子

22.06.2017

Photo: sarkaritel

 

 アブドゥルアズィーズ・イブン・サウード初代サウジアラビア国王の孫で、現サルマーン国王の甥、王位継承順では次の国王となるムハンマド・ビン・ナーイフ皇太子(57歳)は突如、王位継承権と内務大臣のほか、全ての役職を剥奪された。代わりに王位継承順第1位(皇太子)に昇格したのが、現サルマーン国王の実子ムハンマド・ビン・サルマーン副皇太子・国防大臣(31歳)である。

 

異例の勅令

 20日に発表された人事を含む勅令は、サウード家の上級メンバーによって構成される忠誠委員会で委員34人のうち31人の支持で決定されたとされるが、王族間の不支持や批判がどの程度あるのかは不明である。また、勅令は「特例の状況下」で発令されたことではあるが、それが何を意味するのかも今時点では不明である。

 

 

 

 勅令に王位継承順の変更のほか、財政緊縮の緩和(凍結されていた軍関係者や公務員への賞与の支給)、前ナーイフ内務大臣が構築した刑事告訴システムの改革などが含まれている。

 

前途多難なサウジアラビアの構造改革

 サルマーン新皇太子は副首相兼国防大臣兼経済開発評議会議長を務め、実にサウジアラビアの防衛、経済、そうして原油輸出量世界最大の国営会社のサウジアラムコ(ARAMCO)の経営を統治してきた。経済改革を進め、娯楽を禁じているサウジアラビアで、コンサートのほか中東イスラム国初のコミコンを2月に開催するなど、エンタテインメント産業を観光と共にサウジアラビアの将来成長産業としての投資を進めている。2018年には、アラムコの新規株式公開を予定、脱石油による産業多角化の政策を改革計画の「ビジョン2030」(注1)を積極的に打ち出した。

 

(注1)ビジョン2030はこれまでの原油依存から脱却して高度医療と観光を中心とする国を目指した構造改革で、サルマーン皇太子が描くサウジアラビアの未来図であるが政策の多くは中長期的ロードマップのハードルはいずれも高く、実現には多くの困難が予想される。特に中心課題となる石油産業の民営化には、資産価値は2兆ドル(日本円で約216兆円)以上とされるアラムコの株式の一部を一般に公開し、残りを構造改革の投資基金とする計画は利益相反で抵抗が多い。

 

外交政策に潜む中東戦争リスク

 外交面では、いち早くトランプ大統領と会談、オバマ政権でイラン核問題の米対応で冷え込んだ対米関係を復活させ、トランプ大統領のサウジアラビア訪問と1,100億ドルの武器購入を実現した。この対米関係の強化が今回、王位継承順を変える大きな要因とも言われている。

 

 しかし、2年前にサルマーン皇太子の下で始めたイエメンでの軍事介入(反政府勢力のフーシとの戦い)はサウジアラビアのベトナム戦争とも言われるようになり、今ではその終結が見えない状況にある。シリアでは反アサド、イスラム過激組織を支援、イランやシーア派勢力の拡大を阻止する政策をとってきた。カタールとの国交断絶もサルマーン皇太子の対イラン政策の一部とされる。サルマーン皇太子の突然の指名でサウジアラビアを中心としてきた中東政治バランスが転換期に入る。原油価格の下落と出口の見えない将来政策の負担で財政破綻が早まり強硬な外交政策で中東の戦争リスクが高まる。