国交断絶の背景にあるカタールとの経済戦争

06.06.2017

Photo: thenational

 

 6月5日、サウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)、エジプト、バーレーンの中東4カ国は、カタールとの国交を断絶すると発表し、さらに2カ国が続いて中東7カ国が国交断絶という極端な反カタール外交政策をとった。カタールが原理主義過激派やイランに近いとした国交断切には背景に熾烈な経済戦争がある。

 

政治的要因

 中東4カ国はカタールと中東地域の政策について意見が異なる。中東4カ国はカタールのパレスチナ自治区を実効支配するハマスやエジプトのムスリム同胞団などイスラム原理主義団体を支援し、シリアの過激派組織との関係も維持する姿勢は支持しない。また最近緊密さを深めているイランとの関係もサウジアラビアにとっては認めたくない事実だった。

 

 このことから政治的な理由で国交を断絶する根拠はあったにせよ、すでにカタールと中東諸国は経済面で経済戦争とも呼べる利益相反関係にあった。今回の外交措置として表面化する以前から、カタールとこれらの中東諸国との溝は深まっており、時間の問題だったとする意見さえある。

 

 ここではカタールと中東4カ国との、特に天然ガス資源とエアライン競争についての確執についてまとめてみた。

 

激化する天然資源輸出競争

 世界の原油輸出量で20位のカタールはサウジアラビアとUAEに遠く及ばないが、天然ガスではロシアに次いでカタールは年間輸出能力7,700万トンで2位となり中東の天然ガス輸出トップ国である。天然ガス輸出の主力となるのは1974年にロイヤル・ダッチ・シェルが発見した世界最大のノース・フイールド天然ガス田だが、イランの天然ガス田とつながっている。中東の天然ガス資源でイランと運命共同体であるといえる。

 

 カタールは石油輸出一辺倒から脱却するため、経済成長を背景に中東の金融経済中心を目指す。しかし最大400兆円とされるインフラ整備(注1)で近代化・国際化に邁進するカタールは同じような政策をとるUAE、サウジアラビアのライバルであり脅威となる。2022年にはサッカーW杯がカタールで開催されるためインフラ整備が急ピッチで進められている。

 

(注1)日本の原油輸出相手国の3位、天然ガスでは4位であるカタールのインフラ事業には多くの日本の企業が進出している。カタールは日本への天然ガス輸出を増やし、311以降の電力危機を乗り切るために沽券した。また海水淡水化技術に代表される日本の技術力に注目し積極的にプラント建設で日本と協力関係にある。

 

 中東の原油・天然ガス輸出額の年度別にみると2014年以降、原油も天然ガスも価格減少のあおりを受けて大きく減少し、中東諸国の財政が悪化していた。しかしカタールの天然ガスは今後135年の寿命(可採年)を持ち、ピークを越えたサウジアラビア原油が枯渇した以降も安定な資源輸出が可能であることは中東諸国がうらやむところである

 

エアライン価格競争

 カタール航空は中東を代表するエアライン御3家(エミレーツ航空、エテイハド航空、カタール航空)の一角をなす。

 

 エミレーツ航空とエテイハド航空はUAEのそれぞれドバイ、アブダビに拠点を置き、中東をハブとして長距離国際線の価格競争を主導する。一方、カタール航空は3エアラインの中で、唯一アライアンス(ワンワールド)に所属し、ドーハを拠点にUAEの2エアラインと真っ向から空の旅の価格競争に挑んでいた。

 

 例えば中東エアラインの比較によると、2016年8月17日付の東京~ロンドン往復航空券の価格は下のようになる。

 

カタール航空        109,580円

エミレーツ航空     125,030円

エテイハド航空     187,020円

 

東京~フランクフルト便では

エテイハド航空      86,730

カタール航空        106,070

エミレーツ航空     112,270

 

 航路によって価格順位は入れ替わるが、3社(カタール対UAE2社)の競争が激しいことがわかる。また航空券の価格だけではなく、拠点の空港(ドバイ、アブダビ、ドーハ)の熾烈な競争もある。高級感ではずば抜けているドバイだが、中東のベスト空港に輝いたアブダビ空港、2014年にリニューアルして垢抜けたドーハ空港も競争力が高い。中東のハブをめぐる空港間、エアライン間の競争が激化している。

 

国交断絶の背景にある経済戦争

 ペルシャ湾に面しサウジアラビアとバーレーンに挟まれたカタールは人口200万弱の小国ながら、原油と天然ガス輸出に支えられた恵まれた経済力を背景にドーハは中東有数の金融中心となっている。中東の派遣を巡って英国の保護下から豊かな天然ガス資源で将来性の高い高度経済成長を続けるカタール。対照的に原油価格の低下で、大きな打撃を受けた中東4カ国は原油枯渇の影がちらつく。カタールの一人勝ちを脅威とみなして国交断絶に発展したとしても不思議はない。