北朝鮮が原子炉稼働し続ける理由

02.05.2017

Photo: telegraph

 

核兵器劣化で原子炉稼働が必要

 核兵器の研究開発の過程で米異国では標準化と安全管理が著しく進んだ。中でもプルトニウムとガリウムとの合金のコアは腐食と自己放射能による崩壊で劣化するため、これらを考慮したオン・シェルフと呼ばれる長期貯蔵技術が確立した。プルトニウム(Pu239)の半減期は2.4万年だが実際には環境を整えても、当初の能力を発揮できる保存期間は20-30年が限界と考えられている。それも米国の基準である。劣悪な環境での長期保存はこれより短くなる。

 

 核兵器を維持するにはプルトニウム製造を継続しなければならない。そのためプルトニウム製造に特化した黒鉛型原子炉を稼働し続ける必要がある。ちなみに米国では毎年製造できるピット(爆縮型原爆のコアと中性子反射体などその周囲の構造の数は20個までと決められている。北朝鮮が核兵器能力を維持するためには、原子炉とプルトニウムピット製造施設を稼働し続けなければならない。

 

 北朝鮮のプルトニウム製造拠点は1986年から稼働したニョンビョンの原子炉で、2007年には国連との合意で閉鎖されていたが、2009年に合意が破棄され再稼働している。中心となる原子炉は熱出力20-30MWコールダーホール型黒鉛減速ガス冷却炉で製造されるプルトニウムで1個/年製造能力に相当する 。

 

 北朝鮮がニョンビョンの原子炉稼働にこだわる理由は、原子炉を停止すれば20-30年後には核兵器が劣化して当初の能力をもつ兵器として使えなくなるから。したがって黒煙炉を停止と引き換えに軽水炉を供与して、プルトニウム製造施設を閉鎖してピット製造能力を奪えば、兵器としての能力は激減する。黒鉛型原子炉は兵器製造に使われていて電力を供給していないので停止は兵器製造の中止と同等以上の意味を持つ。すなわちこれまで製造した兵器が使える状態を保つために不可欠なのがプルトニウム生産能力のある黒鉛型原子炉なのである。それゆえ報復攻撃を考慮しなければ空爆と巡航ミサイルでニョンビョンの原子炉を破壊しさえすれば、核兵器開発と維持の両方とも断念せざるを得なくなる。

 

 

核兵器はピットの開発で進化する

 核兵器は1950年代と1960年代で大きく様変わりした。その歴史はピットと呼ばれる爆縮型原爆のコアの進化そのものである。1950年代のピットは核兵器級ウラン(U235)もしくはプルトニウムとの混合物が用いられ、大型でミサイル弾頭には適さなかった。これに対して1960年代のピットはプルトニウムのみからなり小型化されて核弾頭が登場した。

 

 ピットは(均一に密度を高めるため)爆縮効率の改善のために多くの改良が施され、ファットマン(長崎型原爆)では中空であったが、その後重水素とトリチウムが仕込まれて核融合反応(D-T強化方式)で爆発力を高めるとともに、必要なプルトニウム量を減らすことができるようになった。この改良で小型化と爆発威力の向上がもたらされ、米ソの核弾頭ミサイル配備競争に発展した。

 

 

 米国におけるピット開発の拠点はロスアラモス国立研究所である。米国はこれまで未臨界核実験を含む多数の核実験と設計変更を繰り返しピットの開発を行ってきた。シミュレーションの発達で実験の必要性は低下したが、シミュレーションといってもパラメーターを設定するための実験が必要となる。そのためインドもパキスタンも5-6回の実験を行わざるを得なかった。

 

 北朝鮮がこれまで行った地下核実験は5回で、実用化には必要な最低ラインはクリアしているとみて良い。しかし小型化に必要なピットの設計に成功しているかは未確認で、また貯蔵環境も不明であり、正確な兵器能力は推測の域を出ていない。ただしイランの核開発に北朝鮮が協力しているので、核兵器開発に必要な技術は習得済みと考えざるを得ない。

 

 2016年9月に行われた北朝鮮の核実験は10キロトンで小型核弾頭としては標準的な能力で、インドが1998年5月に行った一連の核実験の中の15キロトンのプルトニウム原爆と規模が近い。この核兵器は弾道ミサイルと爆撃機搭載のための小型原爆の検証と見れば、北朝鮮の小型核弾頭の開発が最終段階にあることを示唆している。

 

 

Credit: 38 North

 

 公開された核弾頭とされる写真は開発が進んでいる射程6,000kmのICBM、KN08ミサイル(上図)搭載用とされている。ただし3段式で重量1トンの弾頭に対応可能としているが、図面をみる限り核弾頭は相当小型にしなければ搭載は難しい。ただし公開されたモックアップとみられる写真では32面体より緻密な分割構造の爆縮多面体が採用されており、高度な爆縮技術をアピールしている。

 

 今回予定されている核実験がシミュレーションのための実測データ収集の一環なのか、新たなピット開発の検証なのかは不明だが、もし前者ならD-T強化型や水爆製造へと向かう実験データの収集、後者ならKN-08搭載のための小型弾頭の実証試験の可能性がある。何れにしても北朝鮮のICBM核弾頭搭載につながる次の一手となる核実験でレッドラインを大きく越えることになる。