ビルダバーグ会議2017 Part 2

07.06.2017

Photo: LHC/CERN

 

 1954年の設立当時から、完全非公開で秘密に開催されてきたビルダバーグ会議。2015年に会議への市民意識の高まりに対応して、初めて公式サイトを公開、その年会議参加者名簿や議題を公表するようになった。しかし、欧米の主要メディアからの参加があるにも関わらず、「エリート・グローバリスト」たちの会議内容は決して報道されることはない。

 

ビルダバーグ会議2017の特徴

・ 去年に引き続き、トランプ大統領が議題となっている。去年は大統領選挙中に会議が開催、クリントン氏を支持し、トランプ氏の個人・人格攻撃でネガティヴ情報を通じて支持率の低下を試みた。今年は、トランプ政権への対応(大統領の弾劾を含め)が話し合われたと思われる。

 

・ トランプ政権から歴代最大数となる閣僚4人が参加している。

 

・ 世界トップ10位の金融サービス企業からアクサ、アリアンツ、ING(インターナショナーレ・ネーデルランデン・グループ、サンタンデール銀行が参加。その他にも、世界的な名門投資銀行、ヘッジファンド数社が参加、金融業からの参加が比較的多い。

 

・ 2014~2106年の会議ではIT技術革新や人口知能研究が重要議題となって、その関係企業が多く参加していたが、今年は参加企業が比較的少ない。

 

・ 世界最大の円形加速器LHCを擁する素粒子物理学の研究所CERNから初めて代表が参加している。(注1)CERNはメンバー国(欧州22カ国)によって運営・利用されている。今回の会議では、欧州22カ国からの企業が参加している。

 

(注1)1954年に発足したCERNは(イスラエルを含む)欧州22カ国が加盟する職員2,500人、年間予算約1,000億円の共同研究機関である。最近、ヒッグス粒子を発見した世界最大の円形加速器LHCの建設費の一部は日本が約140億円を援助するなど日米を筆頭に世界各国が負担した。(LHCの重要な加速器構成要素である超伝導磁石やATLAS検出器には日本の技術協力が大きく貢献しているため、日本はCERN理事会でオブザーバーながら特別の権利を持っている。)CERNは加盟国からの代表で構成される理事会が選出する長官(Director General)以下4名の執行部で運営される。今回会議に参加したファビオラ・ジャネッテイ女史は、2012年にATLAS検出器でヒッグス粒子を発見した功績で2016年に長官に任命された女性物理学者。(ダンブウランのフイクションを映画化した「天使と悪魔」の女性研究者のモデルともいわれている。)

 

CERNはしかし加速器LHCの事故やその改良作業で予算オーバー、財政難にある。また2030年以降本格化する次期計画の概要決定が3年以内に迫り、現在のLHCの周長27kmに対して次期計画(FCC: Future Circular Collider)は周長50-60km、エネルギーは8倍に拡大されるため、その建設費は1兆円を超える。CERNの「国境を越えた研究機関」として人気の高い女性長官が実績をアピールして、今後必要な財政的な支援を求めたとしても不思議ではない。

 

・ スペインの銀行危機が騒がれている最中、デギンドス経済大臣とスペイン最大の銀行、バンコ・サンタンデールの会長が今回参加している。スペイン第6位のバンコ・ポピュラールは不動産ローンの不良債権処理が進まず、再建のための資本増強と公的資金による救済が望めない破綻危機にある。株価は暴落、取り付け騒ぎで預金は減少、破綻を避けるためには身売りしかない事態に追い込まれているが、銀行の買い手が決まらない。バンコ・サンタンデールによる買収への話はあるが、一向に話が進まないなかで、解決策の話し合いが行われたと推測される。

 

・ NATO事務総長の参加の背景には、NATOへの軍事負担費の不公平を訴えたアメリカに加え、これまでEUのなかで最大の軍事費を負担していた英国のEU離脱、加盟国の防衛費削減などの動きで資金面でのNATOの存続が難しくなっていることがある。

 

 会議の参加者名簿と議題は公表されているが、決して会議内容は公開されないことから、「エリート・グローバリスト」たちのアジェンダを明白に把握することはできないが、将来に向けてのトレンドが見えて来る。会議は設立当初から多大な政治的影響力を行使し、欧米の政策を左右してきた。次第に有力メンバーの高齢化、参加者の世代交代とともに、新しい成長産業からの参加企業、多くの投資銀行やヘッジファンドの参加が増えた。このことから会議の性格も権力構造の世代交代で大きく変化していることがうかがえる。