ドイツ総選挙を左右するシュルツ効果と移民政策問題

03.05.2017

Photo: dailystar

 

 ドイツにとってもEUにとっても9月24日に予定されている総選挙は国内はもちろん欧州全体へ大きな影響力を持つ。メデイアはメルケルの続投を予想する。メデイアがメルケルの勝利を予想する理由は一体何なのだろうか。世論調査ではメルケルを支えるキリスト教民主同盟とドイツの2大政党をつくる社会民主党が最大与党で政権を揺るぎのないものにしている。小党派が増える傾向にあるドイツだが、与党独裁に近い政治基盤がメルケル政権を支えており、野党連立で巻き返すことが困難になっている。

 

 

変わらない国民のEU支持

 ドイツ国民の多くはメルケル政権の移民政策に不満を持っているものの、EUとの強い絆を捨て去ることには反対している。EU脱離政策を訴える新政党、「ドイツのための選択肢」の支持率は3-4%と議会に代表を送りこめる5%ラインを下回る。また自由民主党もEU離脱派を取り込むことに関心がなくなり、議会勢力となるにはキリスト教民主同盟支持者の票の一部を獲得する必要がある。最大野党の社会民主党と少数派の「緑の党」も現政権以上に強いEUとの関係継続にこだわる。このためフランスのようにEU懐疑派が多数勢力となることはあり得ない。メルケル支持者の中には他の候補者がいないから、という消極的支持も多い。

 

 社会民主党が緑の党や左翼党派と連立を組むシナリオは可能だが、社会民主党自身が支持者に連合の予定を否定しており、たとえできても他政党との連合で与党勢力(大連立)となるためのハードルは高い。欧州のテロが収まらなければ国民のEUへの期待は低下し、選挙に反映されれば次期政権のEUとの関係に大きな影響を与えることは間違いない。メルケル政権の続投の可能性が高いものの他のEU諸国の政権交代も含めれば、ドイツもEU政策を変更せざるを得なくなる。全体で見ればEUへの求心力が低下し結束力に逆風が吹くことは十分予想できる。

 

 

「シュルツ効果」で勢いづく社会民主党

 2015年の大晦日にケルンで起きた集団暴行事件、2016年8月の襲撃事件、2016年12月にベルリンで起きた死傷者60名を越すトラック暴走テロで、メルケル政権の寛容な移民政策に国民の批判が集中した。

 

 その移民に寛容なメルケル政権は移民の管理強化で選挙に備える構えで、テロ事件で安全保障は左翼政党では徹底できないとして批判し、国民の支持を得ようと必死だ。3月の調査(Infratest Dimap)によると社会民主党は現政権の移民政策に不満を持つ国民の支持を集め、32%の政党支持を得て、与党勢力と拮抗することとなった。社会民主党は「シュルツ効果」(注1)として知られる党首のシュルツ氏の掲げる党再生政策で、勢力を増やしつつある。最新調査では与党が35%、社会民主党が30%で連立与党の圏内にある。

 

(注1)社会民主党が前欧州議会議長のシュルツ氏を首相候補に擁立したことで、世論調査でそれまで15ポイント差があったキリスト教民主同盟との差が一気に縮まり一部では逆転現象も起きている。

 

 一方、5月に行われた総選挙の指標とみられるノルトライン=ヴェストファーレン州とシュレースヴィヒ=ホルシュタイン州の地方選挙ではキリスト教民主同盟が社会民主党を抑えた。このためメデイアが総選挙でも現与党が圧勝すると予想する。しかし「シュルツ効果」で勢いに乗る社会民主党とキリスト教民主同盟の支持率がそれぞれ44%、33%とする調査結果もある。また両党の支持率差は5%程度とする調査もある。仮にキリスト教民主同盟が処理しても議席数の差がこの程度なら緑の党との連立で与野党逆転が起きても不思議はない。

 

 

ドイツ兵士の偽装テロが発覚

 国民の安全保障に関する関心が高まる中で、テロ襲撃に見せかけた政治的襲撃の疑いでドイツ兵士が逮捕されたことが波紋を呼んでいる。9月の選挙結果までに国内のテロ事件が起これば、結果に大きな影響が出ることは避けられない。