原発閉鎖でも上がらない電気料金の理由

20.06.2018

Photo: oilprice

 

老朽化した原子炉は寿命を40年から50年に延長したところで、やがては閉鎖、廃炉の運命にある。先進国ではいずれも新規建設が遅れていて、更新は飲めないから消極的脱原発は(少なくとも先進国では)避けられない。しかしスペインやドイツのように国策で再生可能エネルギー化を進めても、買い上げ制度は一時的な電位料金の値上げに結びつき、国民の負担が増えることになる。

 

米国の老朽化原発の閉鎖の影響

老朽原子炉閉鎖の影響は100基の原発を抱える米国がもっとも深刻である。ペンシルバニア州立大学の研究チームは同州の発電量の6%に相当する2箇所の原発を閉鎖する場合の電気料金への影響を調べた結果、電気料金を据え置くことが可能であるという。下図は米国の原子炉閉鎖数。

 

ピッツバーグ西部のスリーマイル島とビーバーバレー原子力発電所は、低い電力価格のために財政難に陥っている。エネルギー使用量は増大の一歩で効率的な天然ガス発電所が稼働しているため、電力価格は今後も続くと予想されている。これは極端に低い天然ガス価格によるところが大きい。

原発を喪失したとしても、原子力発電と競合する火力で発電することができるということになる。

 

84%以上を火力に依存する日本も極端な火力置き換えが功を奏した例である。研究チームは現在閉鎖されている2箇所の原発の影響を詳しく調べた結果、卸売エネルギー価格が3年間で毎年4~10%上昇すると予想されたが、天然ガスに置き換えると、卸売エネルギー価格は毎年9%から24%低下すると予測された。このことは天然ガスの市場価格が低く維持される限り、卸売エネルギーコスト削減が大きいことを意味している。

 

火力(天然ガス)発電との競争は厳しい

天然ガスの価格は、10年前と比べて4分の1になり、天然ガスの発電所の経済に貢献した。世界銀行の天然ガス価格予測によると、今後数年間でわずかにしか増加しないと予測される天然ガス価格は、300%も上昇しなければ原発と競争は生じない「一人勝ち」状態にある。初期費用が高く、発電コストが低い再生可能エネルギーの増加は、原発の競争力を低下させた。

 

下図は原子炉閉鎖を再生可能エネルギーで置き換えたドイツのエネルギー比率。初期投資は買い上げ制度によって電気料金の増加になった。ドイツやスペインが引っ張った太陽光・風力など再生可能エネルギーへの投資規模は縮小し、欧州の投資規模は見る影もない。

 

 

米国の電力需要は過去10年間で増加していないため、需要の伸びに対応する発電能力の増加の必要はないが再生可能エネルギー市場動向と原発の閉鎖が消費者および電力事業に与える影響を再検討する必要がある。日本でも将来の老朽化原発の停止を想定したエネルギー基本政策の抜本的見直しが早急に必要である。

 

 

火力依存を継続しない選択するならば、再生可能エネルギー導入シナリオを見直さなければならない。現実には原子力推進派の根強い反撥で、原子力比率は保護され再生可能エネルギー比率は伸び悩む。天然ガス価格に依存しきったコスト重視の日本のエネルギー政策が抱える潜在リスクは今後も続きそうだ。