乳房組織の老化で増大する乳癌リスク

25.04.2018

Credit: Jonathan K Lee in the lab of Dr. Mark LaBarge

 

これまでの研究で女性の乳房組織が老化によって変化することが知られていた。ヒトは年齢とともに異なる細胞に成長する能力を持つ多能前駆細胞が増加するが、これが癌発生につながる場合があると疑われていた。ノルウエイのベルゲン大学の研究チームは年齢によって変化する乳房組織(多能前駆細胞の増加)が癌発症のメカニズムの一つになることを見出した(Fanny et al., Cell Reports 23, 1205, 2018)。

 

ベルゲン大学の研究チームは57名の女性の乳房組織を調べ、歳とともに多能前駆細胞が乳房組織上皮層に蓄積されるにつれて、異常な管腔細胞(注1)が上皮層内膜に増大することを見出した。筋上皮細胞(注2)のように見えるこの異常な管腔細胞は、正常な乳房組織と区別され、腫瘍を抑制する正常な筋上皮細胞の減少を伴う。

 

(注1)乳頭腺菅癌に見られるような細胞が集まって空洞の状態になることを管腔形成という。

 

(注2)外分泌腺の腺房や導管の内腔を覆う腺上皮と基底膜の間に認められる細胞でその一部は上皮の基底層を構成し、上皮の前駆細胞や幹細胞を含む。

 

研究チームによれば年齢とともに増加する異常な管腔細胞は腔前駆細胞(注3)から形成され、乳腺上皮異常を誘発する、すなわち乳癌を発症するものと考えている。また研究チームは乳房組織の老化に特徴的な蛋白質を特定した。

 

(注3)2009年にBRCA1の変異保有者の前癌性組織に異常に大きい管腔細胞前駆体集団が見つかった(Lim et al., Nature Medicine 15, 907, 2009)。

 

このメカニズムは骨髄や脳など(乳癌に限らず)一般の癌細胞発症にも成立する。年齢とともに蓄積される幹細胞(多能前駆細胞)が老化のメカニズムであり、同時に癌発症の起源でもあるという発見のインパクトは大きい。

 

研究チームは、上皮細胞表現型の仮想的マップを作成するアルゴリズムを用いて細胞サンプルからのデータを分析し、より類似した細胞をより密接にグループ化した。これらの可視化グループ分けにより、異なる年齢の乳房組織における微小な変化を特定し、細胞同士がどのように関連しているかを調べた。また組織に存在する上皮細胞型に基づいたアルゴリズムを用いて、調査した女性の年齢層と対応することがわかった。

 

細胞の違いと年齢の相関の例外は乳癌を発症する異常な高いリスクをもつBRCA1遺伝子を持つ若い女性グループで、その細胞はより高齢の女性の細胞に酷似していた。

 

Credit: Cell Reports