ブレクジットの現実~貿易協定の対価は400億ポンドの清算金

27.03.2018

Photo: nme

 

 英国の完全なEU離脱(ブレクジット)は19ヶ月の移行期間後になる。EUが英国に巨額の清算金を要求する一方で、英国とEUとの貿易問題が浮上し問題を複雑化している。英国のEU離脱担当大臣のデイビス氏は、貿易交渉は進展しているとしながら、最終結果次第では約400億ポンドに及ぶEU離脱清算金を拒否することもあり得るとしている。

 

 デイビス氏はEU事務局との交渉が進展を見せているとしながらも、貿易協定が合意され締結されなければ、英国は離婚和解金と揶揄される離脱清算金を支払う義務はないことを明らかにした。

 

EU離脱への移行期間

 2019年3月29日をもって英国のEU離脱が成立する。しかし、EUと英国が合意したブレクジットの条件では、2019年3月29日から2020年の12月31日までを移行期間となる。この期間中、英国はEU加盟国でなくなり、EU政策の決定プロセスに参加はできないが、 EU法や政策、貿易協定が適用される。

 

 英国独自の貿易交渉は可能で、合意および批准もできるが、移行期間中はEU貿易協定が適用される。焦点となる移民政策に関しても、この期間に英国に入国した場合、離脱前と同じ権利が与えられる。また、移民の受け入れを拒否することはできない。

 

 英国の漁業可能海域に関しても、新たな条約が成立しない限り、移行期間中はEU共通の漁業政策が適用される。さらに、英国領北アイルランドと国境管理を伴わない措置で合意しない限り、英国領北アイルランドはEU単一市場、関税対象の同盟国とされる。

 

貿易協定の対価となる清算金

 食中毒で治療を受けているデイビス氏はBBCとのインタビューに応じた。ブレクジットに懐疑的なデイビス氏は、また清算金の支払いを拒否すればEUとの自由貿易協定から遠のくことを警戒している。デイビス氏は2019年始に終了する移行期間後に、漁業権を回復することも明らかにしている。

 

 これはメイ首相が移行期間中の漁業権がEU管理下にあるとしたことへの反撥を考慮したためである。デイビス氏によれば移行期間後は英国周辺の漁業海域は英国の管理下に置かれるが、将来的にはEU諸国との相互協力の可能性があるとした。

 

 今後の交渉の焦点は後1年を残す移行期間後の貿易問題となる。メイ首相はブレクジット肯定派の保守勢力から、移行期間後にEUとの関係を全て清算した完全な独立を求められている。デイビス氏は国民投票の結果を否定する動きを警戒し、国民投票の結果を尊重しなければならないとしている。

 

スエズ運河の屈辱再び

 今後、恒常的にEUとの関係を断ち切るならば、英国の歴史に汚点を残すとしたデイビス氏はブレクジットに懐疑的な立場を崩していない。英国の過去にはスエズ運河のエジプト侵攻に際して、「スエズ運河の屈辱」(注1)を例に挙げ、ブレクジットを中止して元に戻す行為は多くの代償を伴うと警告した。2020年末までEUルールに束縛されざるを得ない英国を「スエズ運河の屈辱」と表現したのである。

 

(注1)イスラエルとフランスとともに軍事力で奪取を企てたが国際世論に屈して屈辱的な撤退を強いられた。

 

 一方でデイビス氏はEUとの交渉は、EU加盟国が自国の貿易保護を目指すためEU求心力が弱まっているとして楽観視する。デイビス氏は「過去の国境に戻ることは許されない。英国はベルファスト協定(注2)を維持する」とし、英国はブレクジット移行期間後の新たな貿易協定を "段階的に批准"する用意があるとしている。このことは英国政府は貿易協定批准の代償として清算金支払いを暗に認めたと取れる。清算金支払いを拒否すれば貿易交渉は決裂するから自然な流れであるが、これも英国にとっては「スエズ運河の屈辱」に値する。

 

(注2)英国とアイルランドが1998年4月10日に結んだ和平合意。これによりアイルランド共和国は国民投票を経て北アイルランド6州の領有権主張を放棄した。

 

 

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