標準理論を覆す新粒子のインパクト

21.03.2016

Photo: GIZMODO

 

CERNLHCはスイスのジュネーブ近くにあり、人々の住む地域の地下にトンネルを掘って設置された周長27kmの世界最大の円形加速器である。LHCはアップグレードによって、エネルギーを倍増し13TeVというエネルギーフロンテイアに立ったが、昨年末から未確認(注1)ながら陽子同士の衝突実験で750GeVのエネルギーに相当する質量に相当する新粒子発見の兆候をつかんだ。

 

2016年に入りLHCはメンテナンスに入ったため確認は遅れているが、ATLASCMSの独立した実験グループで750GeVピークが見つかっているため、新粒子と認められるには確認が必要だが、世界中に2012年にLHCで発見されたヒッグスボソンを超える質量の新粒子が発見されたというニュースがネットでいち早く伝わった。

 

(注1ATLASCMS実験グループは陽子衝突が750GeVのガンマ線放出に崩壊することを発見した。2015年末段階での確率は「新粒子の発見」に満たない統計精度であったが、独立した実験系で同時に観測されたことから新発見の可能性が高い。一方で膨大な実験データでは偶然の一致も考えられるとする慎重意見もある。

 

 

750GeVのエネルギーを質量に換算するとヒッグスボソンより重い粒子となるが、このことはこれまでの素粒子理論(標準理論)をひっくり返すほどの意ンパクトを持っている。電磁相互作用、強い相互作用、弱い相互作用、重力の4つの相互作用を考慮した標準理論(標準モデル)はスピン1/2(フェルミオン)、スピン0(ヒッグス粒子)、スピン1(ゲージ粒子)の(これまで発見されたすべての)粒子をこの3つの相互作用で矛盾なく説明できていた。

 

新素粒子の存在が衝撃的である理由は過去の実験と標準理論ではヒッグスボソンが最後の粒子であり、新しい素粒子の存在は標準理論の枠外にあるからである。もっとも標準理論が揺らぎだしたのは今回が初めてではない。1998年にスーパーカミオカンデのニュートリノ振動データによって、標準理論によれば質量がないはずのニュートリノに質量が存在することがわかった。揺らぎだした標準理論に今回のLHC実験は決定的な打撃を与える。

 

 

標準理論の根底にある相互作用にしても新たな種類の力が働いた可能性も出てくるが、それこそは標準理論の書き換えなければならないことになり、世界中の素粒子研究者の注目が集まる。

 

昨年末時点ではATLASに比べて統計確度が低かったCMS実験グループもデータを解析し直して精度を上げた結果、ATLASCMS実験グループの精度(データの量)がほぼ同じになった。CMSの確度が1.2σから1.6σに改良され、ATLAS1.9σとなった。

 

 

素粒子の新発見はこれまで常にエネルギーフロンテイアにいる加速器に与えられた特権であった。LHC13TeVが現在のエネルギーフロンテイアである。一方、LHCを引き継ぐ次世代加速器(ILC)はよりエネルギーフロンテイアを捨てより高品質なビーム良い直線型加速器となり陽電子-電子衝突実験でヒッグス粒子に焦点を絞って精度の高い解析を狙う。しかし今回のようにエネルギーフロンテイアにいる加速器からは今後も、新しい超対称性粒子が発見される可能性があり、今回のヒッグスボソンを超える質量の新粒子発見のように、これまでの実験と理論の蓄積を書き換えてしまうほどのインパクを持つ結果が出てくることは改めてエネルギーフロンテイアの重要性を認識させられる。

 

下の図の750GeV付近の異常が新粒子の質量に対応する。