リオ・オリンピックに深刻な環境リスク

08.07.2016

Photo: medicaldaily

 

リオ・オリンピック2016に暗い影がさしている。ジカ・ウイルス対策や工期遅れだけではない。新たに環境汚染の問題(水上競技場の水質)が深刻化したためである。ブラジルはオリンピック開催を前に原油価格暴落を受け財政難となり政治不安定(注1)で開催も危ぶまれたが、開催を控え今度は環境汚染で選手に健康被害が出る恐れが出てきた。

 

(注12009年にリオ開催が決まった後、ブラジルは経済成長率が最速とされ、BRICSの一員として世界経済を牽引すると期待されたが、現在は財政難と政治不安の二重苦を背負っている。

 

開会式まで2カ月を切ったリオ・オリンピックだが、新たなリスクとして環境汚染問題が発覚した。オリンピック会場3か所と観光客に人気のイパネマ海岸の水質を調査したAPによれば、糞尿起源のウイルスや細菌が健康被害をもたらすほど汚染されていることが明らかとなった。リオの下水は浄化装置を通さずそのまま海に流し込まれるためである。

 

感染症を引き起こすほど高いウイルスと細菌濃度は、下水から混入したものであるという。公式発表では水質調査は行ったもののウイルスと細菌の調査は怠ったとしている。感染すれば肺機能と消化機能に障害が現れるため、出場選手のみならず観客に健康被害リスクをもたらす。(2)

 

(注2)海岸の汚染はブラジルに限らない。米国の海岸でさえも10%は基準を満たしていないとされる。ただしリオ海岸の汚染度は米国基準値の100万倍を超える。

 

 

Source: eSeats.com

 

環境汚染が世界的に広まっている事実は衝撃的であるが、リオ・オリンピックのボートレース競技場では川が汚染されて白色の競技ボートの船体が茶色に変色するほどだという。ブラジルの水質基準には細菌に関する規定しかないため、ウイルスの汚染は野放し状態に近い。糞尿に含まれる主なウイルスとしてはハンタウイルス(Hantavirus)、サルモネラ(Salmnella app.)、リンパ球性脈絡髄膜炎ウイルス(LCMV: Lymphocytic choriomeningitis virus)などがある。

 

ウイルスの人体への侵入経路は口、目、皮膚(切り傷)など広範囲である。飲料水経由の感染症が最も懸念されるが、現在のところ有効な対策はない。水質調査の結果を見た専門家によれば、汚染された水の関係する種目では出場選手の99%感染をさけられないとしている。

 

環境汚染はオリンピック以前の問題であり、ブラジル以外の南米の国々では水道水を飲料にするリスクは度々、放射線被ばくのリスクと比較されるほど高い。しかし開催を目指す国として環境保全に力を入れなかった怠慢は批判されて不思議ではない。環境汚染以外では最大リスクはジカ・ウイルスだが発生率が全盛時の10分の1になったとはいえ、ワクチンが完成しておらず治療法が確立していない。

 

 

201512月に大統領の汚職スキャンダルで議会が混乱したが、その後大統領を追求する市民運動が強まった。汚職構造の根が深くブラジルは政治不安定となり、競技施設の一部の建設が遅れている。建設工事の遅れはアテネでも同様であったが、環境問題は健康リスクを無視することに等しい。オリンピック精神にそぐわない無責任なものである。組織委員会と政府への批判は免れない。