ネットアクセスに行政発行ID

04.06.2016

Photo: smartacquiring.com

 

 欧州連合(EU)の執行機関である欧州委員会は、インターネットへのアクセスに行政発行のID制度の導入を検討している。制度は個人が自由に設定し、インターネット使用の際に入力するIDとパスワード制度を廃止、代わりに行政が個人に付与したIDを使うことになる。

 

 

 

 EU加盟国の間で、社会保障、雇用保険、納税などの公的サービスへのアクセスを容易にすると言われている「電子ID (eID)」カードが使用されている。今回検討されているのは、インターネットへのアクセスだけでなく、インターネット上での個人の認証として使うことである。

 

 今では複数のIDやパスワードを使うのは、ネットを使用する上で個人情報の安全性を確保するために常識となっている。欧州委員会は、この複数のIDとパスワードの使用が利便性と安全面で問題を起こしているとし、行政発行のIDを使うことで個人情報の不正取得が難しくなると説明している。

 

 制度の立案者はエストニアの「デジタル社会化」に関わったAndrus Ansip元エストニア首相である。金融機関、民間企業との参画で、行政発行のIDカードが公的認証制度の拡大に繋がった。ネットアクセス、EU内での移動の際にエストニア国民であることを認証する目的の他、銀行サービスへのアクセス、公共交通の使用、選挙投票、健康保険の利用、税金の納付などの際に、このIDが使われ、日常生活上不可欠なものとなっている。

 

 

ネット上の行動を追跡・監視

 ネットのアクセスの際にIDを使うことで、政府は特定の個人について以下の情報が得られる。

 

   ・ネット使用期間、頻度、目的などを把握

   ・ネットショッピングの情報でショッピング行動を把握

   ・ネット上のコメントの監視(ヘイトスピーチ、陰謀的言動、政府への批判などを監視)

   ・個人のお金の流出入に関しての情報を把握

   ・将来ネット取引への課税制度導入の環境整備

 

 現金廃止、社会のキャシュレス化の動きと同様に、インターネット・アクセスに行政発行IDを使う制度はインターネット上での言論への自由、個人のプライバシーの侵害、ネット使用の上での行動を政府は追跡、監視、規制することを可能とする。

 

 

 

 ユビキタス化でインターネットにいつでもどこでも接続されている現代社会ではネットへのアクセスと個人情報の政府管理が行き過ぎれば監視社会に直結する恐れがある。利便性だけでなくその代償としての「個人の自由が制限されるリスク」を認識しなければならない。