テロリストが狙ったベルギーの原子炉

26.03.2016

Photo: pamelageller

 

322日のISによるブリュッセルの空港と地下鉄の連続テロ事件の犯人モハメッド・バカリの自宅から原子炉襲撃を計画していたことを示す資料が見つかったことを受けて、ベルギー当局は国境沿いのアントワープに近いドエル原発(下の写真)とブユッセル郊外のテイアンジュ原発の作業員の一部を避難させるとともに、不審な新規雇用の11名の採用を見送るなどの警戒措置を行った。

 

核兵器の製造には高純度プルトニウムやウランが必要になるが、原子炉で使われる核燃料の純度は低くそのままでは製造することはできないが、純度の低い核燃料でも高レベル放射性物質であることに変わりはなく、いわゆる”Dirty Bomb”を作ることができる。

 

また原子炉の圧力容器を破壊すれば大気中に放射性物質が大量に放出され、上空に舞い上がったプルームの放射能汚染で広範囲の地域が被害を受ける。そのため原子炉がテロ攻撃の標的となることは核兵器を爆発させるのと同等以上の効果がある。そのため原子炉周辺は厳重な警戒態勢がしかれ、武装警官に守られている。(日本も例外ではない。検問所の警官は武装している。)

 

 

Source: Wiki

 

“Dirty Bomb”の攻撃効果は空港や地下鉄の自爆テロとは比較にならない被害をもたらす。しかしテロリストにとっても警戒網をかいくぐって原子炉建物に近づくことは容易ではない。(原子炉建物の内部への入り口は1カ所である。)今回の標的となったベルギーの原発はすでにサボタージュ攻撃が仕掛けられていることがわかった。またそれとは別にドエル原発とテイアンジュ原発の原子炉は過去に数々の問題を起こした「いわくつきの」原子炉であることも明らかになった。

 

 

始まっている原発への攻撃

20141130日、テイアンジュ原発は火災が起き停止したが、それより前に別の原子炉が20148月に停止した。後者のの原因は「人為的な破壊工作」すなわちサボタージュであった。全電力の55%を原発に依存するベルギーはフランス同様にベース電源を原子力に頼る。これとは別に20151031日にはドエル原発で火災が発生した。その原因は不明とされている。

 

ウクライナでサボタージュによって大規模停電が頻発したことは記憶に新しい。ベルギーの原発は幸いこれまで変電設備や小規模火災で済んでいたが、圧力容器が爆弾で損傷を受ければ核テロ並みの被害となる。サボタージュが判明している20148月火災のほかに火災事故が相次いでいることは原子炉を含む「グリッド」へのテロ攻撃が始まっていることを示している。しかしベルギーの原発はそれだけではない構造的な問題を抱えていた。

 

 

原子炉にも問題が発覚

ドエル3号機の原子炉圧力容器に平均で直径10-14mmの層状欠陥が9,000個見つかった。原子炉圧力容器の材料には高品位の鋼鉄が要求され、ロシアを除くほとんどの世界の原子炉メーカーに容器を納入しているのは「日本製鋼所」という日本企業である。ドエル3号機の圧力容器はオランダのメーカーが製造したもので、テイアンジュ2号機にも2,000個の欠陥が見つかった(東電調べ)。このためベルギーの原子炉は運転を停止、核燃料を取り出して検査を行っている。この2基は20126月にもトラブルを起こし、1年間停止した。このメーカーの原子炉は世界に22(注1)あり、いずれも容器が破損する危険性がある。

 

(注1)米国10基、ドイツ2基、ベルギーの技術協力で建設されたアルゼンチンンの1基、スペイン2基、オランダ2基、スエーデン2基、スイス2基。

 

EUは欧州の9基について検査を勧告しているが、検査期間中は核燃料を原子炉建物内部でプールで冷却しながら保管しなければならず、容器中にあるよりも盗難の危険性が高い。9/11以後に原子炉建物には航空機の衝突に耐える基準ができたため審査が通りにくくなり、大型原子炉の建設予定が軒並み遅れている。建物の補強で建設コストが高騰し、建設期間も延長せざるをえないからだ。

 

フランス政府は国境近くにあるベルギーの原子炉の構造欠陥を重く受け止め再稼動に反対したが、結局ベルギーはドエル12号機とテイアンジュ1号機の3基を10年間運転延長許可を出した。福島第一事故の後、ドエル12号機を2015年間でに閉鎖し、テイアンジュ1号機を2015年間まで運転し、すべて(7基)(注2)を2025年間でに停止する。停止期間中と廃炉作業中は核燃料棒が取り出されて保管されるのでテロリストの標的になりやすい。特にテイアンジュ原子炉はブラッセル空港から車で1時間の距離にあり、付近は人口密集地帯である。圧力容器の破損も怖いがテロ攻撃にも備える必要があるが、どちらも電力会社には重くのしかかる。

 

(注2)ドエルには1-4号機の4基のPWR、テイアンジュには1-3号機の3基のPWRがある。