サウジアラビアのビジョン2030に黄信号

01.05.2016

Photo: CNBC

 

国家収入の80%を原油輸出に頼っているサウジアラビアは原油価格の減少で財政難に陥り、サルマン国王による独裁体制への反撥が高まっている。構造改革に迫られるサウジアラビアはモハメド皇太子(国防大臣)が原油依存から脱却を目指して打ち出したビジョン2030が波紋を投げかけている。

 

 

IMFはサウジアラビアが2020年に財政破綻すると警告している。公表されたビジョン2030は原油依存から脱却して高度医療と観光を中心とする国を目指した構造改革で、サルマン国王の長男であるモハメド皇太子が描くサウジアラビアの未来図である。政策の多くは湾岸諸国が以前から目指してきたものだが、ビジョン2030では改革案を整理統合し中長期的ロードマップとして、財源を具体化した。改革項目ごとに数値目標が掲げられ、具体的になったものの、達成するハードルはいずれも高く、実現には多くの困難が予想される。

 

ビジョン2030の中心課題は民営化である。資産価値は2兆ドル(日本円で約216兆円)以上とされるアラムコの株式の一部を一般に公開し、残りを構造改革の投資基金とする。民営化スキームはクエートで1950年代に実行され湾岸諸国も同様の政策をとることとなった。サウジアラビアは原油輸出の収入で米国債を購入し米国の安全保障を受けてきたが、民営化により米国債売却となれば米国債暴落に結びつく。

 

 

Credit: Mineweb

 

労働人口の大半を周辺湾岸諸国に頼るサウジアラビアにとっては、インフラ整備において労働力確保は必須の条件である。そこで周辺国からの出稼ぎ外国人労働者にもグリーンカードを与え、労働者虐と国内雇用における人権問題の解決を目指す。

 

次に巡礼者を中心に外国人の訪問者を現在の5倍に増やし観光立国を目指す。メッカへの宗教巡礼のためにサウジアラビアを訪れる年間300万人のイスラム教徒数は上昇傾向が続いている。

 

ビジョン2030では国家資産と企業を民営化することで、UAEに見習ってスキルを持った労働者を国外から集め有効に活用して産業の活性化を図る。国民のほとんどが公務員と言われるサウジアラビアで民営化を行おうとすれば、国民の大半を敵にまわすことになる。ポスト原油世代と言われるモハメド皇太子が主導権を握れば、国家元首は若返るとしても政権の存続には不安材料も多い。

 

ビジョン2030実行に当たって予想される問題点は以下のようにまとめられる。

  1. 構造改革の実行に際しては政府部内(注1)でコンセンサスが必要となる。
  2. 現在の体制での既得権益者の激しい抵抗が予想される。
  3. 国民は公的サービスの質が低下することを嫌う。
  4. 最近まで原油価格の高騰による収入増で国家予算が膨らみ続け、国王一族は私服を肥やしたことで全国民が、裕福な生活に慣れてしまった。

 

(注1)議会は王族の影響力が強いが、サルマン国王の高齢化と財政難で反対派の勢力が強まった。

 

 

サルマン国王の王族内部に反国王の動きがあり王族に反感を持つ国民も増えていて、認知症を患うサルマン国王の力は衰える一方である。モハメド皇太子の前にはさらに原油安により歳入減が立ちはだかる。また周辺国との争いにより国外の反サウジアラビア運動が活発化するとみられる。ビジョン2030はサウジアラビア一国の構造改革にとどまらず、中東一帯の政治的均衡を破りペトロドラーを基軸とした体制の終焉を加速する。

 

モハメド皇太子の構造改革案はマッキンゼー報告を参考にしたと見られるが、マッキンゼー報告では宗教と観光立国の観光立国が矛盾することを警告する。スンニ派の厳格な宗教規律のため海外から一般の観光客を集めることはできない。つまり宗教戒律のために観光立国化の将来性は極めて低い。モハメド皇太子はアラムコの資産価値が2兆ドルとしているが、すでにピークを過ぎたサウジアラビア油田の資産価値は大幅に目減りしている。原油値下がりにより財源に難があり、既得権益者と宗教戒律の激しい抵抗が予想される。財政難が続けば国王一族が追放されて体制が崩壊するリスクが高まる。現実には構造改革が実現する可能性は低い。