パンドラの箱と水素社会

Feb. 11, 2015

 

 パンドラの箱を開けてしまった人類はスリーマイル島、チェルノブイリ、福島第一、と続いた原子炉の事故で脱原発に舵を切る国も増え、住民の反対や環境団体の圧力で新規の原子炉建設は支障をきたしている。気候温暖化に伴い排出ガス規制もきびしくなると再生可能エネルギーへの大転換は潮流となった。


 原子炉の歴史を振り返ると図のように現在は第三世代にあたり、事故を起こした原子炉は第二世代、商業炉としては成熟していないようやく高出力が達成できた古い型式であったことがわかる。第三世代の原子炉は自立型の炉心冷却機能に特徴がある。



 

 従来型の原子炉では、炉心加熱等の事故発生時に安全装置として、外部交流電源あるいは非常用発電機で動くモーター駆動のポンプや、自動的に起動する無電源の強制冷却システムなどで安全な冷却を確保する。これに対して第三世代では外部ポンプを使わずに、屋上にあらかじめ溜めておいた冷却水を重力で送水するなど、安全対策が講じられている。


 そのため発展途上にありエネルギー不足にある中国(注)では第三世代型の原子炉が建設中であるが、米国では新規建設が反対運動で進めることができないでいる。これに対して第4世代型原子炉は超高温原子炉VHTR(Very High Temperature Reactor)と呼ばれる。

 

(注)中国を発展途上国と呼ぶのはどうかと思うが、政府も先進国と考えていないようだし実際、ODAを受けているという意味で適切であろう。

 

 この第四世代原子炉は従来型と異なり熱源部分で600-1000度近い高温になる。そのため熱効率の高いガスタービン複合発電(注)が可能で、ヘリウムガスを1次冷却剤とするガスタービン原子炉が知られている。ヘリウムガスタービン炉は原子炉心の熱容量が大きく、放射化しないヘリウムガスを冷却剤に用いるために安全性も高いとされる(下の写真)。



 

 燃料電池車(FCV)の販売をトヨタが開始した。一方で2020年オリンピック村には水素が供給されて、定置型燃料電池(エネファームなど)による発電で、未来の水素社会の試金石ともいえるミニ水素社会が近いことを思わせる。燃料電池には水素以外の天然ガスも使えるが、温室ガスを出さないクリーンエネルギー源として期待されている。


















 関連のなさそうな水素社会と次世代型原子炉が深く関わるかも知れない。超高温原子炉は高温を生かして天然ガスから水素製造に使用可能で大規模な水素供給施設を原子炉に隣接して設置すれば水素社会に水素を供給できるようになる。


 燃料電池車が主流になるかどうかは別にしても、水素社会が現実化するためには次世代型原子炉に隣接した水素供給基地が望ましい。脱原発を貫いたとしても核廃棄物の処理や廃炉等で原子力との付き合いはやめるわけにはいかない。一度開けたパンドラの箱は閉めても出て行った悪霊は戻せないのだ。そうだとしたらより高度な次世代原子炉で水素社会を一足早く実現するのもよいのかも知れない。


 パンドラの箱を慌てて閉めても核廃棄物は半永久的に残る。好ましくないとしてももう、別れを告げるわけにはいかない。仲良く暮らして行く道を模索するしかないだろう。