米国の小型原子炉に遅れ

July 31, 2015

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Photo: AlChEE

 

 米国エネルギー省は次世代型の小型原発開発に力をいれている。しかし設計上の問題、安全性、経費の面で10年スケールの遅れがでると政府関係者が語った。また今後の開発続行と試験に1-2億ドルの経費がかかるとしている。

 

 また次世代型小型原発の設計が完了して、原子力規制委員会に申請されたとしても、稼働するのにあと10年以上かかる見込みだという。

 

SMR

 米国内の原発は99基の軽水炉で、国内のエネルギーミッックスは原子力20%であるが、原子炉の老朽化が激しいため一部分は閉鎖となる。原発メーカーが考える小型原子炉(SMR: Small Modular Reactor)の概念は、これまでの大型原子炉と大きく異なる。従来の原子炉は現地で組み立てて、核燃料を仕込むがこの方式の欠点は建設工期と経費、核燃料交換や廃棄である。もちろん大型で複雑なために安全性の問題もある。

 

 SMRの概念は核燃料をあらかじめメーカーが工場で組み込み、現地ですぐ使える状態で出荷する。また使い捨て感覚で核燃料が燃え尽きたら、工場に送り返すと燃料を交換して送り返される、という点で「原子力バッテリー」と呼ぶ方が適当かもしれない。

 


Photo: nextBIGFUTURE

 

 通常の原子炉ではGW(100万W)クラスで建設コストは1基あたり2,000-3,000億円となる。原発の小型化は新規導入を予定している途上国のニーズからも経済的負担の少ない小型原発化が進んでいる。上の写真は出力330MWのSMARTと呼ばれる韓国の小型原発である。SMARTは従来型原子炉を安全性を高めて小型化したものである。


 一方、米国の原発メーカーは次世代型原子炉はずっと小型で無人運転できる、さらに小さい数10MWクラスのSMRが使われると考えている。さらに米国のニューメキシコ州に拠点を持つHyperion Power Generation社はより小型で画期的な原理の次世代小型原発を提案している。

 


Photo: Nuclear Power Daily

 

 小型原発は電力不足の過疎地を中心に需要があると考えられる。米Hyperion社のSMR(上の図)は熱出力70MWで27MWの発電能力を持ち、20,000戸の家庭の電力をまかなうことができる。小型原発の歴史は古く、世界初の原子炉はウエスチングハウス社が潜水艦用に製作したものだった。また電力不足の背景には人口増加による家庭用電力不足があり、小口の電力供給は地域をまとめてもこのクラスの発電能力で十分であるということもある。

 

 Hyperionの原発はウラン水素化物を燃料とする。これは濃縮ウランに水素を吸収させて製造する。水素は核反応によって放出される中性子を減速するが低速になった中性子は核反応に使われる。このためこの種の原発の出力は一定に保たれる点は「バッテリー」と呼ぶのにふさわしい。

 

Hyperion原子炉の原理

 そのため原子炉内部には可動部、冷却水、制御系が不要となる。もし水素化ウランが加熱して高温になると水素がウランから放出され、核反応が停止する。しかし水素は圧力容器中にとどまるので冷却されれば再びウランに戻り、核反応が再開される。

 

 炉心で発生した熱は液体金属で原子炉の外に伝達されるが、液体金属の流れるパイプは水で冷却されるため、ここでも中性子の減速作用による核反応増進が行われる。この原理はロスアラモス国立研究所の研究者によって発明されたが、この研究者は研究所を退職し2006年からHyperion社に投資する企業に加わった。

 

立ち込めた暗雲

 Hyperion社によれば設計は次年度に完了し、東ヨーロッパから6基の受注を得ているという。は虫先の電力会社はそのほか44基の購入をオプションとしている。またデイーゼル発電を置き換えるためにそのほか100基の受注が見込まれており、同社は燃料を封入して出荷し5年後の運転終了後は送り返された原発に燃料を再充填して送り返す。

 

 購入にあたっては米国に特許料2,500万ドルを支払わなければならない点および規制員会が小型原発の認可にかかる時間が、問題となっていたが今回の遅れで早期の出荷は困難となった。小型原発が大量に世界中に出回れば核不拡散は事実上意味をなさなくなる。

 

 米国が慎重になる理由は、安全性の確立に時間をかける必要があるからだが、認可のプロセスが複雑になることや改造でなく新型の認可には時間がかかることで、原発はもはや電力不足に対応する手っ取い解決手段でなくなっているようだ。