国家を持たない民族−クルド人とは

Feb. 18, 2015

 中東の国々に広がって国家を持たない3000万人(注1)といわれる民族が存在する。クルド人である。クルド語を話しスンニ派が多い彼らの祖先はオスマントルコに住んでいたが、第一次大戦後に国が分断され、トルコ、イラク、イラン、シリア、アルメニアに分かれて居住を余儀なくされた。


(注1)オーストラリア、韓国の人口はそれぞれ2300万、5000万である。全世界に分かれて居住するユダヤ人の人口は1340万人である。


 遊牧生活を帰る彼らが一番多いのはトルコで1,500万人がいる。トルコ議会には20-30/550議席を有する少数民族であるが、団結力が強く独立心の高い彼らは中央政府からサボタージュの疑いをかけられるなど、数々の弾圧を受けている。



 イラクではフセイン政権下での弾圧はトルコ以上に厳しく政治的弾圧というより民族迫害に近いものであった。クルド人は国家を持たないが民族意識が高く欧州経由で武器を入手し、武装勢力20万は中東にあって無視できない存在である。米政府筋は、米政府がイラクでスンニ派過激組織と激しい交戦を続けているクルド人治安部隊にCIAが直接武器供与している事実を認めた(ロイター)。一方でイラク政府もAK-47などの武器をアルビルのクルド人武装勢力に供与した。これによりクルド人武装勢力はアメリカ、ロシアの武器を同時に使用する近代的な戦闘集団化した。


 2011年からのシリア内戦は複数の勢力が互いに覇権をめぐって泥沼の抗争を行なっているがその中でもシーア派のアサド政権の反対勢力同士、反政府武装組織「ヌスラ戦線」とシリア北部のクルド人勢力の間での衝突も頻発し、内戦はアサド政権対反対派という単純な構造が成り立たない複雑な民族抗争となっている。



 シリア内戦の動向にクルド人勢力は重要な影響力を持つ。中東歴史上クルド人と彼らの悲願であるクルデイスタン王国はこれまで表にでることは少なかったが、今や武装勢力として中東の安全を握る無視できない国家を持たない民族となった。政治的には少数勢力ではあるがイラク暫定政権の大統領にクルド愛国同盟のジャラルタラバニが選出され、存在感を増している。


 クルド人とクルデイスタンからみた中東は「もうひとつの中東」と表現され、日本語の書籍も数多い。国家のない民族は迫害、弾圧の対象となったがその多くが居住する国家そのものにとっても紛争リスクを与えている。